第83話

「……んだよ、寒い?」



「いえ、そうではなくて……」



「なんだよ…どーした?」



「……寂しいです」



「……お前なぁ、」



「二度と会えなくなるのは、寂しい」




さっきはすぐに出てこなかった"寂しい"の四文字が簡単に口から飛び出したことに、新次郎さんも呆れている様子だった。




「お前、無意識に人の心を掻き乱す天才だな」



「……そんな才能があるとは思えません」



「じゃあ、俺の心を乱す天才?」




グルン…っと、彼によって身体を回転させられ、向かい合うようにしてお互いの目を見つめ合う。




「…今すぐって訳じゃねぇから、そんな顔すんな」



「いつかは、そうなるってことですか?」



「まぁ…そーなるだろうね。元々俺とお前の関係に名前なんてもんは存在しない…紬葵は確かに俺のトクベツではあるけど、お前と俺が同じ未来を生きることは絶対に…無い」




ハッキリ無いと断言されてしまい、堪えきれず流れた涙を…新次郎さんの指が掬ってくれる。




「だからその分、いま一緒に居られる時間…大事にしよーな?紬葵…」




涙に濡れた頬にキスを落としたあと、身体を起こして私の上に覆いかぶさった彼は…私の肌に沢山の紅い痕を残していく。




その痛みさえも愛おしくて、永遠に終わりが来なければいいのに……っと切に願ってしまう。この気持ちを伝えられる日は、おそらくこないだろうけど…彼の言うように今を大事に生きようと強く思った。

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