第70話

「……愛されてるんだね、いま」



急に、優しい目をしてそんなことを言う典子さんの言葉に驚いて言葉につまる。




「前は紬葵ちゃん、彼氏に嫌われたくないって感じで必死だったから…全然楽しそうじゃなかったけど。今は余裕があるっていうか…落ち着いて見えるからさぁ?きっと今の彼氏は紬葵ちゃんを大事にしてくれてるんだろうなって、そんな感じがする」



「そんなことはっ…」



「女は愛された方が幸せになれる、追いかけるよりも追われるような恋をすればいいよ」




……だとしたら、既に逆の道を歩いている気がする。新次郎さんが私を追ってくれるなんて未来はきっと来ないだろうから。





その後、仕事の愚痴や休みが合えば買い物に行こうなど…他愛もない話をして23時頃に解散することになった。




一緒にタクシーに乗って、先に典子さんの自宅に向かってもらってから自分もマンションに帰宅する。




少し酔いが回ってふらつきながらエレベーターに乗り込み、何気なくスマホを取り出してみればそれは”彼専用”の方で。




連絡なんてあるはずがないと思いつつ、画面を一度タップしてみると…【いま、どこ?】というメッセージが一通。30分ほど前に届いていた。




「新次郎さんっ、」



慌てて電話を掛けようと思ったが、エレベーターの中では電波が不安定だと思い…とりあえず一度帰宅しようと開いた扉から走って飛び出し急いで鍵を開けて部屋に入った。そこで気付く違和感。




──…電気が、ついている。




走ってリビングに向かうと、ソファの上で寝転んでこちらに向かって手をあげる新次郎さんの姿を視界が捉えた。




でもっ…それは、よく知る綺麗な顔をした彼ではなく、、




「なにが、あったの…どうしてそんなに、」



「まぁ…名誉ある負傷ってやつ?」




見るからに重症患者、ここで寝転んで寛いでいていいような人では無い。顔に沢山の傷を作り、ぐったりとして具合の悪そうな彼を見ていると堪らなくなり…思わず抱きしめてしまった。

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