第64話

お風呂から出てリビングに向かうと、そこに新次郎さんの姿はなく…寝室に居るのかと自分も向かおうと足を進めた時、ふとベランダ近くのカーテンが揺れた。




少しだけ開いている窓の隙間から、僅かにタバコの香りがして…ゆっくりと足を進める。




「…ん?コラ、湯冷めすんだろーが…部屋ん中入ってろ」



「少しだけ、風に当たりたい気分なので……」



「……2分だけな?」




手に持っていたタバコを灰皿に片付けて、手を貸してくれたので有難くその手を取ってベランダへとお邪魔させてもらった。





「……綺麗な景色ですね」




高層マンションから見下ろす夜景は、中々見応えのある綺麗な景色だった。




「俺がここで紬葵と楽しいことシてる間も、どっかで誰かが働いて社会回してんだなー…って思うよなぁ」



「……え?」



「お前だけじゃねぇよ、俺だって同じようなもんだ。絶対に親父みたいにはなりたくねぇ…って反抗ばっかしてたのにさぁ…結局は親と同じ仕事に就いてんだもんなぁ…俺もお前と同じ。親が敷いたレールの上で生きてる」



「……同じ?」



「そう、職種は別でも…気持ちは理解できるってこと。お前で言うところの医者は俺にとっての”若頭”ってポジションなわけ、分かる?」



「…な、なんとなくっ」



「だから……他の兄弟と比べられながら看護師になったお前の気持ち、すげぇ分かるんだよ。あー…こんなはずじゃ無かったのになー…お前、どんどん可愛く見えてくんだけど。どーしてくれんの?」





そっ、そんなストレートに…言わないで、、

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