第58話

「待って、ツムちゃんっ……」



それでもしつこく付きまとう遥馬から逃げようと、走り出そうとした時、



「……待てって、紬葵っ!!」



突然怒鳴り声をあげた遥馬に驚いて振り返ってしまった私を、遥馬は人目を気にせずに抱きしめた




「紬葵のことは俺が一番よく分かってる。そうだろ?キスもセックスも…全部俺が教えてあげたよね…?たった一回の間違いで離れ離れなんて…おかしいよ、俺には紬葵しか居ない。お願いだから戻ってきてよ……ツムちゃんっ、」




「っ…や、やめて…」




少し身体を離した遥馬が顔を近づけて来て…キスをしようとしてきたので全力で拒んだ。しかしそれが遥馬のプライドを傷つけたのか、今度は思い切り突き飛ばされてしまい…受身を取ることが出来ずその場に倒れ込んでしまった。




お店の前でそんなことをしていれば、周りも騒ぎ始めるわけで…人が近づいてきた気配を感じたのか遥馬は居心地が悪くなったみたいで舌打ちをして逃げるようにその場を去って行ってしまった




「あのっ……大丈夫ですか?」


「けっ、警察呼びます?!」



一部始終を見ていたと思われる、男子高校生二人組がアイスクリームを片手に駆け寄って来てくれた。……学校帰りの寄り道だろうか?恥ずかしいところを見られてしまった。




「大丈夫です……ありがとうございますっ」




立ち上がって彼らにお礼を述べてから自分もその場を後にしようと思ったが…まだ近くに遥馬がいる可能性を考えると真っ直ぐ帰るのは危険な気がした。……家を知られるのはマズい。





お風呂に入ってすぐにでも横になりたい気持ちを押し殺し……遥馬が去った方と反対側の道を適当に歩いて時間を潰した。




適当なカフェで軽食を食べて、珈琲を飲みながらボーッと時が過ぎるのを待ち…22時を少しすぎた頃、タクシーに乗って帰宅している最中…




カバンの中でスマホが振動していることに気が付き…取り出してみるが何も通知が来ていなくて。まさかと思い家主サマ専用スマホを手に取ると案の定着信を告げる画面が光っていた。

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