第54話

背中にキスをされたり、首元を舐められたり…そういうことをされる度に気になっていた。彼の身体には”そういう印”みたいなものがない。



イメージでしかないけど…極道や裏社会で生きる人達には必然的にあるものだと思っていたから…もしかしたら案外普通の人なのかな…っという妙な期待を抱いてしまったのだ。





「色々想像してるところ悪ぃけど、特に深い意味なんてねぇーよ」



「……え、」



「ダサいだろ、、あーいうの。いや、いつの時代?って感じなんだよね…俺温泉とか普通に入りてぇし、痛いの嫌だし?身体に残したい柄とか特にねぇし…龍とか虎とかマジでダサい。桜とか梅とかもっと意味分かんねぇ」




……あ、そんな感じなの?




「組とか会にもよるだろうけど、俺は入れたくねぇから嫌だって通してるだけ。時代は令和だからね…古くさい風習はどんどん捨てていかねぇと」



「なんか、自由ですね…もっと怖い世界かとっ」



「それがあっても無くても、やることは変わらねぇし…無いからダメな奴だ…なんて今まで言われたことはない。ってか、言わせねぇ」



「……新次郎さん」



「いつか、奪ってやるつもりだから─…」



「…っえ、」



「バカなお前にも分かるように言えば、王座奪還ってやつ?まぁ紬葵には関係ねぇ話だから…忘れて」




真夜中の闇は時に人を素直にする。聞かなければよかった…と後悔する私の後ろで彼もまた…言わなければよかったと、悔いているような気がした。

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