第62話

強面組員たちの視線を一挙に浴びて、伝わってくるものと言えば、期待・関心・ワクワク!!ってやめろ。




 あんた等が嬉しそうに呼ぶ【姐さん】というフレーズは、期間限定だという事にいい加減気付け。



 ずっと否定し続けているのに....。






 そして無事に完食し、温かいお茶を啜っていると、嵐の様に現れるもう一人の馬鹿。






「杏ちゃ~ん。また来ちゃったよ。」




 大広間の襖を勢いよく開いて、猪突猛進私の方へと駆け寄ってくる白髪ヘラヘラ男は、隣のダークホースこと詠斗の存在など無視である。



 私に抱き着こうとするから、気持ち悪くて避けようとすれば、一足先に詠斗によって抱きかかえられて回避する事が出来た。




「何しに来たてめぇ。」



 不発のミサイルは、床にズッコケて無様に顔面から着地した。


 馬鹿が見上げる表情は私を捕えるけど、追い打ちを掛ける様に蹴りだされた詠斗の足が、七海さんの顔面を勢いよく蹴り飛ばした。





「痛いな~全く。ハチは手加減ってものを知らないよね。」



 当たり処が悪かったのか、鼻血を垂らした七海さんは、そこを手で押さえながら立ち上がる。



「杏が怖がってんだろうが。勝手に人ん家に上がり込みやがって。」



「別にいいじゃん。一応家族なんだしさ。」





 最近分かったことと言えば、七海さんは詠斗の双子の兄だけど、"ここ"とは無関係?という事だ。




 というよりかは、組の継承者が弟で、お兄さんは継がないとか....なんとか....。




 だからか、七海さんは私を口説きに掛かる。





「杏ちゃんは若頭の女よりも、俺みたいな溢れ者の方が気が楽だと思うんだよね。ね、そうでしょ?」




 ただ....ひとつ言えるのは、この男も一応はヤクザで、傘下の組に籍を置く存在という事だ。




 組の“ドン”は詠斗になる予定だけれど、七海さんの主張とすれば、私が詠斗の求愛を頑なに断って嫌がる姿を見て『重荷が無ければいいんでしょ?』と、何やら勘違いをしてしまっている。




 そういう問題じゃないんだけどね...とは突っ込みを入れたくても言えない。面倒くさいのでスルーだ。




「ほら、俺と居た方が数百倍は楽しいし気が楽だと思うし、夜のお供も絶対に満足させてあげられると思うんだよね....。今まで何人も孕ませてきているから、種だって使い物になるし~。」





 サラッと恐ろしい事を云うものだから、冗談なのか本気なのかさっぱりだ。



 

 ところで、孕ませてきた女の人ってどうなったの?とは....怖くて聞けない。




 

「ね!一発中出しで、俺との子供作っちゃおうよ。」




―――――流石にここまでは聞き捨てならなくて、詠斗が鉄槌を下すよりも、私の蹴りの方が早かった。

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