第92話

目が覚めると、隣に冬弥の姿はなくなっていた


時計の針は9時を指していた


そろそろ仕事に行くのではないかと思い、ベットから出てリビングに向かった


『冬弥?』


「ん?無理して起きてくんな」


ソファに横になってスマホをいじっていた冬弥は上半身を起こして微笑んだ


そばにいてくれる


それだけで心の底から安心できた


『そろそろ仕事?』


「んー…まだ早い」


『そう…』


「熱は?」


『大丈夫』


呆れたように笑って寝室に体温計を取りに行く


「計れ」


『…はい』


ソファに座った冬弥に膝枕してもらう


静かな部屋には体温計の音が鳴り響いた


「まだ高いな。明日も安静にしてろ」


『明日は仕事行かなきゃ』


「ダメだ」


『大丈夫大丈夫。きっと朝には下がってる』


「頑固者」


『知らなかった?』


「知ってた」


他愛もない話


そんなことでも幸せを感じられた


「24日、10時過ぎちゃうかもしれないけど大丈夫か?」


『うん、お仕事?』


「…あー、うん」


言葉に詰まったような感じがした


でも不思議と違和感は覚えなかった


それを後に後悔することになるなんて思ってなかった

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