第89話

「ごめん友梨。仕事で戻らなきゃいけないけど、大丈夫か?」


『うん、大丈夫。ありがとう』


2時間ほど濡れたタオルをおでこにあててくれたり、買ってきてくれたスポーツドリンクを飲ませてくれたりと、終始看病してくれた 


少ない時間でも嬉しかった


私が玄関まで見送ろうとすると、寝ていろと肩を抑えられた


『でも鍵…』


「あ、そっか」


靴を履いた冬弥は、凄く心配そうな目をしていた


本当はずっといてあげたいのにしてあげられない

その悔しささえも伝わるほど


「じゃあ、何かあったら連絡しろよ?」


『うん。ちゃんと手洗いうがいしてね』


「ハハ。大丈夫だよ。じゃあな」


風邪がうつる心配を本気でしてるのに、じゃあなと軽くキスをしてくる冬弥のイタズラに笑う顔が凄く好きだった


冬弥が出て行った部屋に取り残された私の中には、温かい気持ちと、ほんの少しの不安があった


クリスマスについて、何も言われなかったのは会えないということなのだろうか

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