第88話

『ゲホッ、ゲホッ…』


夜がふけるに連れて寒気が増していく


全然薬が効いてる気がしない


明日は病院かと肩を落としたときだった


―ピンポーン 


『?』


玄関のチャイムが鳴って、私は時計を見る


22時過ぎ


一体誰?と思いながら体を引きずって玄関の覗き穴を覗いた


『…え?』


私は急いでドアロックを外して扉を開けた


「看病にきたよ?嘘つきお嬢さん」


いつも通り顔を隠した冬弥


『なんで?』


私の驚きに笑いながら玄関に入るとオデコに手を当てた


「必死に隠したつもりか?息も荒いし鼻声だし、電話でも高熱だってわかる」


『だ、ダメだよ!うつったら大変。私は平気だから帰って!』


会いたかった人が目の前にいる


冬弥の影が薄れていた部屋に広がる冬弥の匂い


「大丈夫だよ。予防してるから」


『嘘!』


「あ、そっか。友梨にそれは通用しないか」


笑いながら冬弥が私を抱き寄せて膝に腕をかける


『と、冬弥!』


生まれてはじめてお姫様抱っこをされる


「いいから寝てろ」


そのままベットに優しく置かれて布団をかけられる


『冬弥、』 


「いいから何も言うな。俺は大丈夫」


『…ありがとう』


人恋しく不安だった気持ちが一気に落ち着いていく  


「言ったろ?努力するって」


会いたいって言わなくても察してくれる


私が素直に言わない理由までも考えてくれる


そして、すべてを受け止めてくれる


一生懸命、芸能人の彼女になろうとする私に"そのまま"で、"普通"でいいと示してくれている気がした


普通の人と付き合うように会いたいと言えばいい


普通の人と付き合うように甘えればいい


普通の人と付き合うようにワガママ言えばいい


冬弥自身が普通でいたいのに、私がそれを邪魔している気がした

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