第76話

夢のようなひと時が過ぎて、冬弥の腕に包まれる


「友梨」


『ん?』


「俺、誰の名前呼んでた?」


急に現実に戻される


『え、あー…ううん。私の聞き間違いだと思うから、気にしないで』


「やましいことがあったらわざわざこのタイミングで聞かないよ。やっと俺のものになったんだから」


そう言って頭を撫でる


「誰?」


『…凛』


「凛?そっか、凛か」


冬弥はフッと笑った


『…早川凛だよね?』


「多分」


やっぱり…


『付き合ってるの?』


「何で進行形なんだよ。俺の彼女は友梨だけだよ」


『じゃあ』


「元でもない」


小さく溜め息をついて冬弥はしばらく黙ってしまった


「まぁ…友梨ならいいか」


『?』


「早川凛は妹」


『…え?えぇ!?妹!?』


「お、丸見え」


『はっ!』


思わず起き上がって上半身を露わにした私を笑顔で見つめた


慌てて布団で隠して横になった


「まぁ、妹って言っても腹違いだし、一緒に育ってきたわけでもないから」


『え…そうなの…?』


「そ、1年前くらいに急に連絡きて、モデルになったはいいけど母親と喧嘩して行くとこないからしばらく住まわせてくれって頼まれた」


『えと…じゃあ…』


「あの家も凛と住むのに引っ越しただけ。お互い干渉しなくていいように、広いところにな」


全部私の勘違い


「出来の悪い妹でさ、毎日起こしたり何かしら注意してたから癖になってたのかもな。名前呼ぶのが」


『そう…なんだ…』


ごめんなさい

あなたの妹を意地悪だと一瞬でも思ってしまいました


「誤解は解けた?」


『う、うん。ごめん…』


「いいよ。公にしてないことだから、誤解もするよな。似てないし」


確かに似てない


「マリーから聞いたよ。あの日凛に水かけられたんだろ?」


『あー…うん…』


「ごめんな」


『ううん、大丈夫』


「家庭環境のせいなのか、ひねくれててさ」


『お兄ちゃんだね』


「まぁな。あんまりうるさく言うもんだから出て行ったけど」


知らなかった一面を覗けて嬉しくなる


「何?」


『何でもない』

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