第74話

思ってた通り、30分後に冬弥は息を切らして私の前に現れた


「友梨…」


『冬弥…』


私がしてほしいことをしてくれる


感情を読み取るのが上手い冬弥は、私を強く抱き寄せてくれる


「ごめん、本当にごめん」


『…家に入ろう』


冬弥と付き合うって決めたときに、もっと覚悟するべきだった


冬弥に甘えてばかりいた


芸能人と付き合うんだから、私自身が気を遣わなきゃいけないんだ


きっと冬弥はそんなこと望んでない


でも、そうしなきゃ冬弥にばかり負担がかかってしまう


「友梨、傷付けたことは謝る。ああ言わなきゃいけない状況だったなんて言い訳するつもりはない。ただ、騙してやろうなんて思ったことは一度もない」


家に入るなり冬弥は話し続けた


私がソファに腰掛けると私の前に膝をついて手を握った


「過去にそんなことがあったなら、余計に信じられないと思う。でも俺はそいつとは違う。俺は」


必死に弁解する冬弥に、私は抱きついた


「…友梨?」


『違うよ。その人と冬弥は、違う』


ソファから落ちてしまうほどの力で抱き寄せられる


「ごめんな、友梨」


『普通じゃなくていい』


「え?」


『普通の人と笑って話してるより、冬弥とこうしてるほうが100倍幸せ…』


抱き寄せた手を緩めて私の頬に手を添える


その見つめた瞳は、まるで何かを確認するようだった


「いいの?」


だから私は、それに答えるようにただ目を閉じた


アルコールの味が混ざり合って、冬弥の舌先に酔っていく

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