第73話

『はい…』


「いっちゃん!?あー、よかった出てくれた。いっちゃん、違うの、さっきのは誤解なの!」


『マリーさん』


「ん?…あ、」


『私なら平気ですよ。前にも…同じように騙されてたんです。賭けに使われてたみたいで、全然そんなの気付かなくて…その時の彼氏は20万儲かったみたいで、浮気相手と大学の後輩の中ではいい笑いものにされてました。だから、全然平気です』


話していてつくづくバカだと感じる


『ちょっと前に、冬弥が寝ぼけて私のこと別の女性の名前で呼んだことがあったんです。その時から、何かモヤモヤしてた部分はありましたし…大丈夫です』


大丈夫

ちょっといい夢を見ていただけ

そう思える


『マリーさん?』


なんの反応も返さないマリーさん


「俺は」


『…え?』


マリーさんだと思っていた


「俺はそいつとは違う」


『冬…弥?』


え?今全部聞いてた?

マリーさんじゃなくて…冬弥に話してた?


「ちょ、冬弥!」


電話口でマリーさんが冬弥を呼ぶ声が聞こえた


「もしもし?いっちゃん?」


『え、あ、あの、』


「ごめん、電話奪われちゃって。あのね、あたしから言うのもあれなんだけど、冬弥はいっちゃんを騙したりしてないからね」


『いや、でも…』


「あたしのこと分かってくれたいっちゃんなら分かってくれるかな?あれが、冬弥のイメージだって」


『…冬弥の、イメージ』


かっこ良くて、モテモテで…

特定の彼女なんていなくて、でも女の影は絶やさずあって…

普通に考えたらそんな人最低なんだけど、ファンの人達はそんなイメージを抱いていて…

そんな冬弥の作る歌が大好きで…


「さっき一緒にいたのは、スポンサー絡みの人達で、イメージを崩せなくて、それで言っただけなの!だから、いっちゃんを騙したりしてないよ!?」


『マリーさん、冬弥は?』


「え、何か飛び出して行っちゃった」


バカだな私

冬弥の弱さも教えてもらわなきゃ気付けなくて、冬弥の苦しみも言われなきゃ分からなくて…


『ありがとうございます。ちょっと冬弥に連絡してみますね』


電話を切って、私はスマホを握り締めて外に出た


冬弥に会いたくて

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る