第71話

男女で飲んでいる声が聞こえてきて、聞いてはいけないと思いつつも、耳に入ってしまう


「このあとカラオケいきましょー!?」


「今来たばっかじゃんか」


「だってぇ、冬弥さんの歌聴きたい!」


「歌ってほしい!あたし大ファンです!」


「ありがと」


きっと冬弥の周りには綺麗な人が並んでるんだろうなぁ


まさか隣に私がいるなんて思ってもみないよね


「はい!ぶっちゃけ冬弥さんて彼女いるんですか?」


「あたしも聞きたい!」


「俺らも聞いてみたいわ」


率直な質問


「いないよ」


ですよねぇ…


わかってはいても、悲しいもんだなぁ


「ほんとですかぁ?」


「あ!彼女はいなくても女はいますよね?」


それはいるって言って欲しくないなぁ…


「いないいない」


はぁ…何かこれ心臓に悪い


早いところ出て行きたい


「嘘つくなよ冬弥」


ん?


「お前この前言ってたデザイナーどうした?」


デザイナー…?


それって…


「えー!いるんじゃないですかぁ!」


「まぁどうせ、遊びの一人だろうけどさ。すげーいい女だって言ってたよな?」


「言ってた言ってた!」


あれ…ちょっと待って


この展開…前にも似たようなことなかった?


あれ…私…


「ん…あー寝ちゃった。ごめんね、いっちゃん。…いっちゃん?」


その時マリーさんが目を覚ました


でも私は体が動かなくて、ただ呆然と目の前の空のグラスを眺めた


「で、冬弥ってわかった瞬間食いついてきた?」


店を出なきゃ


今すぐ出なきゃ


「ん?冬弥…?」


マリーさんも隣に冬弥がいることに気がついた


立って出て行くのよ私


「まぁな」


冬弥の返事に、心臓がドクンとした


「マジかぁ!これで百戦錬磨だなお前!」


「一般人は無理だろって思ってたけど賭けは冬弥の勝ちかよー」


あれ…


おかしいな


「ちょ、何?え?何?」


マリーさんも話しの内容を理解したようで、どうしていいか分からずあたふたしていた


私は一万円をテーブルに置いて、席を立った


『すみません、今日は失礼しますね』


「え、ま、待って!!いっちゃん!!」

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