第67話

『あれー…おかしいな』


「どしたの?」


スマホがないことに気付いたのは、午後になってからだった


『んー…スマホがないの』


「なくしたの?」


『家かなぁ?コートのポッケに入れたはずなんだけど…』


「電車で落としたとか?」


『いや、今日は電車に乗ってないから…』


「ふーん…どうやってきたの?」


『車で送ってもら…あ…』


頬杖をついた真希はニヤニヤと笑った


「じゃあ車に落としたのかもね?」


『困ったなぁ…マリーさんから連絡来るかもしれないのに』


「電話してみようか?」


『うん、お願い』


真希のスマホで電話してもらうと、呼び出し音は鳴るが誰も出なかった


「出ない?」


『うん、どうしよう』


困り果てたそのときだった


「一ノ瀬」


『?』


夏川先輩が私を呼んだ


「これ」


『え?』


夏川先輩の手には、私のスマホが握られていた


『先輩、これ…』


「さっき休憩終わりに戻ってきたら、会社前で渡されたんだ。一ノ瀬に渡してくれって。サングラスとマスクして、パーカーのフード深く被ってる男に」


冬弥…


『ありがとうございます』


わざわざ届けてくれたんだ


あれ?でもどうして夏川先輩に?


『あの、その人これ渡すとき何か他に言ってました?』


「ん?いや、普通に呼び止められて一ノ瀬友梨に返しといてもらえますかって」


『そうですか…ありがとうございます』


私はすぐに冬弥にメッセージを送った


《携帯届けてくれたんだね?ありがとう!すごく助かった。  友梨》


その返事はすぐに返ってきた


《イケメンの上司に渡しておいた。 Toya》


《よく私の上司って分かったね? 友梨》


そこで冬弥からの返事が途絶えた


でもバカな私は、特に気にすることもなくそのまま1日を過ごしてしまった


逆の立場になったとき、きっと冬弥ならすぐに気が付いてくれるのに


私は気付けなかった

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