第66話

冬弥の車で会社の近くまで送ってもらい別れを告げると、少しだけ寂しそうな顔をした


結局、凛と呼んだ真相は聞けなかった


寝ぼけて呼ぶなんて、よっぽど親密な関係なんだと思ってしまう


でも、今更聞くなんてできなかった


ただ私の心の中にモヤモヤと刻まれてしまった


「一ノ瀬」


『夏川先輩、おはようございます』


「おはよう。何か寝不足か?」


『え!分かりますか!?』


冬弥と別れた場所で足を止めていたら、出社してきた夏川先輩とバッタリ会った


「まぁな。毎日見てるからな」


『そんなに酷い顔してますか?』


「いや。何か嫌な寝不足じゃないって感じだな」


『夏川先輩のほうが余程見る目が優れてるかも…』


「ん?なんの話だ?」


『いえ!こっちの話です!』


その時私は何も気付いていなかった


「もうすぐ忘年会だなぁ」


『えー?まだ11月に入ったばっかりですよ?」


「年取ると1ヶ月なんてすぐなんだよ」


『あはは。夏川先輩は毎日忘年会みたいなものじゃないですか』


「お。言うようになったな。まぁ、確かにそうだな」


冬弥の車にスマホを落としていて、それを届けに引き返してくれた冬弥が、私と夏川先輩の姿を見て心を傷めているなんて


気付いていなかった

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