第61話

「友梨、これ何?」


『え、あぁ…今度マリーさんとコラボする企画があって、そのデザイン』


テーブルに散らばったデザイン画を見て冬弥はやっと体を起こした


「マリーと?へぇ…これ友梨が考えたの?」


『うん。こっちはマリーさんの意見だけど、これは私がマリーさんをイメージして…』


「これ、喜ぶと思うよ」


『…どうして?』


「マリーが好きそうだからかな」


『…』


「友梨?」


どうしてだろう

冬弥が褒めたのは、私が勝手に本来のマリーさんをイメージして描き上げたもの


決して大人のカッコイイというイメージではなく


可愛いでもない


可愛らしい大人


本来のマリーさんを、冬弥は知っている


そう思った瞬間に切なくなってしまった


さっきだって、私を凛と呼んだときに感じた感情


心臓が内側から鷲掴みにされたような苦しさ


冬弥の寝顔を見つめた時の幸せな気持ち


名前を呼ばれ見つめられた優しい微笑み


もう完全に…


「…友梨?」


冬弥が大好きだ


「どうした?」


そうやって優しく頭を撫でる手


私は恐る恐るその温かい手を握った


『!』


その手を逆に握り返されて、強く引き寄せられる


すっぽりと冬弥の腕の中におさめられてしまう


自分の胸の高鳴りが、耳から漏れているよう


「不安にさせた?」


何も言えなかった


違うともそうだとも


「ごめん。他の女のことよく知ってたら気分悪いよな」


何でもお見通しの冬弥


でもこうして抱き寄せられると、どうでも良くなってしまいそうだ


「でもマリーは親友」


『親友?』


「そう。親友っつーか、悪友かな。マリー自分のこと友梨に話したの?」


『え?何も…』


「それなのにこのデザイン描けたの?」


『何となく…マリーさんは世間のイメージに縛られてるんじゃないかと思って。本来のマリーさんは、もっと可愛い服も着たいし、本当はとても繊細な人なんじゃないかなって…』


私を抱きしめていた冬弥は微笑んだ


「服1つでそこまでわかるんだ。すげぇな」


『わからないよ。全然…わからない』


私はハンガーに掛けた冬弥のパーカーを見つめた


『あのパーカーを見ただけで、どんな人が着てるかなんて分からないよ』


「…」


『一見したら、たくさんの攻撃的なワッペンがついてて、黒地に金のファスナー…怖い人かな?近寄り難い人かな?そう思うけど、実際着てる人は全然違う』


「じゃあ、どんな人?」


『優しくて、人の感情を読み取るのが上手くて、大胆で甘え上手で…』


「友梨は人を見る目が優れてんのかな?」


『そんなことはないと思うけど…』


「いや、マリーはきっと喜ぶよ」


『…そう、だといいな』


「マリーに伝えておくよ、友梨のこと」


『え?』


伝えておくってどういうことだろう?


それにマリーさんのことは納得したけど、凛って…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る