第60話

―ゴトン!


『?』


何かが床に落ちた音がしてテーブルの下を見ると、私のではないスマホが落ちていた


冬弥が寝返りをしたときに落ちたのだろう


私はスマホを拾ってテーブルの上に置いた


結構大きな音がしたのに起きないなんて、余程疲れているのだろう


特に何も気にせず私はマリーさんをイメージしていくつかデザインを描いていた


しばらくすると、テーブルの上に置いた冬弥のスマホが振動した


その振動は長い間鳴り続けていた


電話かな?

起こしたほうがいいかな?

何時に起きなきゃいけないとか聞いてないし…


そう考えて冬弥を揺さぶろうとテーブルに手をかけた時目に入ってしまったスマホの画面


『…あ』


その画面に表示された名前は"早川凛"


あの子と冬弥は友達なんだ


少しだけモヤっとしてしまう


『冬弥、冬弥』


そしてそのモヤモヤは他の感情へ変わってしまう


「…ん…凛」


確かに今冬弥は凛と言った


寝ぼけながら凛と


凛って…早川凛のこと?


『と、冬弥。電話鳴ってるよ』


正直動揺した


早川凛からの着信に、寝ぼけて呼んだ名前


別人のこととは思えなかったから


「友梨…ん?電話…?」


友梨と言って私を見つめた微笑み


『あ、はい』


私は起き上がらない冬弥にスマホを渡した


受け取って画面を見ると、しばらく何かを考えたように動きを止めた


そしてサイドボタンでサイレントにすると、画面を裏側にしてテーブルの上に置いた


「今何時?」


『0時過ぎたくらい』


「寝過ぎた…」


寝過ぎたと言ってもまだ冬弥が寝てから2時間ほどしか経っていない


伸びをした冬弥はじっと私を見つめた


「断ると思ってた」


『何が?』


「部屋に入るの」


『嘘。断れないの分かってたくせに』


クスクスと笑う冬弥


私の頭の中には冬弥の言った凛が一体何なのか

それしかなかった


「いいなー、このマンションに引っ越してこようかな」


『へ?何言ってるの。あんな立派なマンション住んでるのに』


「もうあそこに住む意味もないしな」


住む意味…?

確かに1人で住むには広すぎる家

もしかして…誰かと住んでた?


早川…凛?


そんな無粋な考えが頭を駆け巡る

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