第54話

――――バシャ!


「きゃっ!」


「ゆ、友梨!」


何が起きたかすぐには分からなかった


夢中で描き上げたスケッチブックと、私の髪の毛からポタポタと水がしたたっている


「一ノ瀬さん、大丈夫!?誰か!タオル持ってきて!」


マリーさんが立ち上がってそう叫ぶ


「友梨、平気!?」


真希がハンカチで私の頭を拭いている


後ろを振り返ると、早川凛の履いていた赤いヒールが目に入って顔を見上げた


「きゃー。ごめんなさーい。ヒールが高くてぇ、つまずいちゃって。だーいじょうぶですかぁ?」


明らかにわざとらしい棒読み


不敵な笑み


スタッフさんが持ってきたタオルでマリーさんと真希が私のことを懸命に拭いてくれる


「ごめんなさい」


『大丈夫ですよ』


何も悪くないマリーさんが謝る


「あー…デザインが…」


真希が肩を落としてスケッチブックを見つめた


描き上げたデザインは、大量の水で滲んでしまっていた


「凛ちゃん…あなたねぇ…!」


『大丈夫です!』


怒りに震えたマリーさんが早川凛に牙を向いた


私はマリーさんを制止した


『今のデザインなら、すべて頭に入ってます。また描き起こしておきますから』


「そうです。一ノ瀬は優秀ですから。一寸違わず仕上げますよ」


真希もマリーさんに向けて笑顔を向ける


するとマリーさんはしばらく私達を見つめて呆れ気味に笑った

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