第53話

私はマリーさんの前に膝をついてスケッチブックを広げた


『聞かせてください。マリーさんのイメージ』


「一ノ瀬さん…」


早川凛なんてかまっていられない

マリーさんのイメージしたものをいち早く描きあげたい


デザイナー魂みたいなものに火がついた


「ありがとう」


素敵な笑顔を向けられて、マリーさんは一息吸って何かをリセットしたかのようにイメージ像を告げた


それを追いかけるように、私はペンを走らせる


途中、あーでもないこーでもないと論議も交わされた


「ここは大きな花柄がいいの」


『ここを大きくするとちょっと上品さが失われるかと思います』


それでもマリーさんは、私の意見も素直に受け入れてくれた


「色で誤魔化せるかと思ったけど無理かしら?」


『そうですねぇ…例えばこうして色をつけてみると、どうですか?あまり大きくないコチラの方が上品に見えませんか?』


「…本当ね。それにちょっと安っぽく見えるわ」


『なので花柄はこれくらいの大きさがベストかと』


「素敵だわ。それ」


『これに合わせたジャケットなんかも素敵だと思います』


「例えば?」


『この花柄を裏地にして、短めの丈のジャケットなんかどうです?』


「いいわ。裏地にまで気を遣うのね」


「それだったらセットにしないでバラ売りのほうがいいよね。3色くらい展開して、好きな色を組み合わせられるの」


黙って見ていた真希も、どんどん意見を出した


「選ぶ楽しみが増えるわね」


『3色なんて言わずに5色にしよう。その方が複数買いしたくなる』


1時間以上かけて描き上げたデザイン


幸先のいいスタートを切っていると感じていた


しかし、何でもそう最初から上手くはいかないものであった

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