第34話

『私そろそろ帰るね』


2時間ほど冬弥の家にいてそう切り出すと、少し淋しげな表情を浮かべた


「泊まってけば?」


『む、無理無理!』


「何で?」


何でって…


『何も準備とかしてきてないし、それに!友達のウェディングドレスのデザイン仕上げなきゃ!』


本当はもうほとんど真希のドレスのデザインは終わっていたけど、上手い言い訳をしないと冬弥のペースに巻き込まれてしまう


「あぁ…そっか。じゃあ送る」


『うん…』


仕方ないと言った感じで冬弥はキーケースを持って立ち上がった


玄関に向かって靴を履いていると、突然後ろから抱きつかれる


「俺結構淋しがりなんだけど」


耳元で囁かれる言葉にドキドキが止まらない


『う、うん』


「友梨。ひとつ約束して」


『?』


真剣な声に変わって、私は冬弥の顔を見た

あまりにも近くに顔があって息が止まる


「俺は真剣に友梨と付き合って行きたい」


うわぁ…

そんなこと言われたら私もう…


「だから何かあったら何でも言ってほしい」


『…どういう意味?』


キョトンとする私を優しく見つめる


「淋しいとか、つらいとか。仕事柄あんまり会えないとか出てくると思う。そういうときに、我慢しないでほしいんだ」


そっか…トップアーティストだもん

ライブとかツアーとか…色々あるよね

よく芸能人は忙しいと休みゼロとか睡眠移動時間だけとか言ってるもんね


でもそういうときに淋しいとか言われても困っちゃうよね


「正直に言ったほうが困るでしょ?とか思ったろ?」


『えぇ!なんでわかるの!』


「百面相」


私は慌てて顔を手で隠した

そんなに顔に出るタイプだったなんて知らなかった


「正直に言わないで、我慢して爆発される方が困るんだよ。会いにいけないかもしれないし、すぐに連絡返せるかわかんないけど、努力はする。な?」


『うん…』


本当にどこまでも優しい人

こりゃあモテるよ

この見た目、このスペック…

私なんかのどこがいいの?

全然不釣り合い


「まぁ最も、そういう思いさせないようにしろよって話なんだけどな」


ハハハと笑う冬弥

でもそれは、どんな人間だって無理に近い話だ

淋しかったり、辛かったりすること含めて恋だから


「これからよろしくな」


『こ、こちらこそ』


こうして、私とトップアーティスト冬弥の恋は始まった

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