第32話

「なんか飲む?」


『え、あー…うん』


「ビールでいい?」


『うん、ありがとう…』


冬弥の部屋に上がって、窓から景色を眺めた


高層マンションならではの内装や広さに、内心ワクワクしていた


「はい」


『ありがとう』


開けられたビール缶

冬弥はミネラルウォーターのボトルを持っていた


黒い革張りの大きなソファにドカッと腰掛けて、60インチのテレビをつける


その姿を見て、私は冬弥の恋人になったのだと何故か実感した


恋人って何するんだっけ


久しぶりの恋人で、頭の中はそんなことばかり考えていた


「座れば?」


冬弥が自分の隣をポンポンと叩く


『う、うん』


くつろいでいる冬弥の隣

微妙な距離を開けて座る


「…何もしないって」 


『え!』


「そんなに警戒しなくてもいいじゃん?」


『べ、別にそういうわけじゃ!』


「まぁでも。もう恋人だし?何かしても問題ないよね?」


ニヤニヤとまた人をからかうように言いながら身を寄せてくる


『いや…そういうのは…もうちょっと…ね?ほら…』


私の反応を楽しむようにクスクスと笑う


「そんなに手早いと思う?」


『うん』


「即答かよ。なら想像通りにしてやろうか?そしたらちょっとは緊張も解けるかもよ?」


『い、いい!』


緊張してるのわかっててそんなこと言うなんて意地悪


「冗談だよ。本当におもしろいな」


『もう本当にからかわないでよ…』


ドキドキし過ぎて体に悪い


「ごめん」


優しい笑顔

胸がキュンとする


『うん』


何だ…こうしてると、普通の恋人だ

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