第31話

しばらく車を走らせると、車は高層マンションの地下駐車場に入っていった


『えっと…ここは…もしかして…』


「家」


サラッと一言

ドアを開けて私を降ろすと右手を握って歩き出す


『ま、待って待って!家って急に言われても!』


そんな心の準備はできてない


冬弥は無視してカードキーでオートロックを開けて進んでいく


『ね、ねぇ』


足早にエレベーターに乗り込んで12階のボタンを押す


階が1つ上がるごとに、私の心臓の音が早くなる


ポンッと音を立てて開くゆっくり開くドア


その廊下を歩いた1番奥の扉の鍵を開けると半ば無理矢理私を入れ込んだ


『冬…っ!』


玄関に入るなり私は冬弥に抱きしめられた


『ちょ、ちょっと待って!本当に待って!』


「何もしない」


その言葉に、抵抗した力を緩めた


冬弥は嘘をつかない


そんな気がしたから


「何もしないから、少しこのままでいさせて」


その甘く切ない声に、抵抗していた手を冬弥の背中に回した


「俺といても、中々会えないよ?」


『…うん』


「普通のデートもできないよ?」


『…うん』


「友達に紹介したりとかも中々できないよ?」


『…わかってる』


「"普通"って言うのが難しくなるよ?」


『…わかってるよ』


私を強く抱き締めた手をゆるめて、肩をしっかり掴まれる

真っ直ぐな瞳で私を捉えた


「付き合ってください」


それはあまりにも"普通"の告白


『…はい』


普通の恋人のやりとりだった


冬弥は子供のように喜んで、私を再び抱き締めた


『ちょ、』


「ありがとう、友梨」


男の人に抱きしめられるなんて何年ぶりだろう


こんなに暖かくて心地よくて、胸のドキドキが全身に伝わっていくものだったと思い出す

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