第20話
通されたのはだだ広い和室
本当に旅館のようで、障子の向こうに広がった庭園から獅子脅しの音が響く
「焼き魚メインに適当にちょうだい」
「かしこまりました」
メニューも見ずにこの頼み方は常連の証拠だ
私のイメージしてた焼き魚定食とは程遠いものがでてきそうだ…
やっぱり住む世界が違う
冬弥が私のために頼んでくれた瓶ビールを飲んでいると、次々に広いテーブルが色とりどりの食材で埋まっていく
『わぁ…美味しそう』
「こちら焼き魚の盛り合わせでございます」
そう説明しながらコトンと置かれた四角いお皿には、小さめにカットされた焼き魚がいくつか盛られていた
やっぱり想像していたアジの開きなんかとは違った
でも香ばしく焼けた匂いが私の胃を唸らせた
「じゃ、食べよ」
『いただきます!』
着物の店員さんがふすまを閉めて出て行くと、キチッと座っていた冬弥は足を崩した
『んー!美味しい!』
「それはよかった」
久しぶりにこんなに美味しい焼き魚を食べた気がした
「嫌いな食べ物とかないの?」
『んー…特に無いかなぁ。冬弥は?』
「お。冬弥って呼んでくれた」
『あ、ごめんなさい』
つい美味しいご飯に浮かれて心の声がでてしまった
でも、冬弥は嬉しそうに笑っている
「いいよ。少しずつそうやって心開いていってくれれば」
うぅ…
ズルイ…
そんな優しい笑顔でそんなこと言うのは…
「俺も嫌いなものはない」
『そう…なんだ』
なんか普通にまたご飯食べちゃってるけど、いいのかな
『あのさ…』
「ん?」
『私なんかとこうやって会ってていいの?』
「どういう意味?」
『こんなところ、誰かに見られたりしたら…勘違いされちゃうんじゃないかって…あ、でも私なんか勘違いされるわけないか』
「本当に謙虚だな。大丈夫だよ。そんときは責任とってくれるだろ?」
『せ、責任なんて取れないよ!』
「ファンが離れたら、その分友梨が埋めて?」
顔が熱い
まるで熱があるみたい
何も言い返せない
「アハハ!友梨おもしろいな」
『か、からかわないで!』
「ごめんごめん。あんまりにも顔が青ざめたり赤くなったりするもんだからつい面白くて…ぷっ!」
冬弥にからかわれて、ペースに飲まれてしまう
「でも真面目に…」
その瞳に、心を奪われそうになってしまう
「そういうことは心配しないで。俺を1人の男として見てよ」
話すたびに
会うたびに
心の鍵を1つずつ奪われていく
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