第21話

『ご馳走様でした』


「はいよ」


冬弥がご馳走してくれて、私は軽く会釈した


「家まで送るよ」


『え!いいですよ!遠いし…』


「明日から忙しいからあんまり時間取れないんだ。少しでも一緒にいたい」


『またそうやってからかって!』


「バレた?いいから住所教えて」


心臓がドキドキしてしまう


ナビに家の住所を入力すると車を走らせる


その横顔をチラッと見ると、本当に整った綺麗な顔をしていると改めて実感する


エステとか行くのかな?

横から見るとまつ毛も長くて羨ましい


「あんまり見つめられると照れる」


『ご!ごめん!』


気付かれてないと思ってたけど思いっきりバレてて私は俯いた


ふと流れてきたシンガー・ソングライターの音楽に合わせて冬弥が口ずさむ


冬弥の生歌…

やっぱり上手いし素敵な声


冬弥の歌に聞き入るように私は目を閉じた


「君の瞳に映る僕はただの男でありたい」


「誰にも渡したくないんだ」


「ありふれた言葉で伝えよう」


このあとに"好きだ"と歌詞が続くはずだった


でも冬弥は歌うのをやめた


それと同時に信号で車が止まる


『…え?』


目を開けると、冬弥が私を見つめていた


「好きだ」


『…へ?』


歌に合わせたわけじゃない


冬弥は私を見つめて好きだと言った


真面目な顔で、真面目な声で…


『あ、青だよ!』


誤魔化すように信号を指差す


また笑うかな


そう思ったけど、冬弥は笑わなかった


無言で前を見ていた

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