第3話

その場で咳止め薬とのど飴を使用すると、か細い声でお礼を言われた


『それは貰ってください。大丈夫ですか?病院行きますか?』


「いや…ゲホッ!家に…」


『家?歩くのはキツイですよね?タクシーですか?』


2、3度頷くとゼェゼェと息を始める


『タクシー乗り場まで私に掴まってください!』


「は?」


『支えになりますから、タクシー乗り場まで』


そう笑いかけると、その人は私の肩に掴まった


エレベーターまで歩いて改札を何とか抜ける


背そこそこ高く、決して細身ではない男性


肩にのしかかる重さを必死で支えた


やっとの思いでタクシー乗り場に着くと、そこは何故か長蛇の列ができていた


『えぇ…何で今日に限って…』


「もういいよ。これに付き合ってたら…仕事…ゲホッ…あんだろ?…おい、何してんだ?ゴホッゴホッ」


私は男性をガードレールに腰掛けさせて、長蛇の列に並んだ人ひとりひとりに声を掛けた


『すみません。具合悪い人がいて、お急ぎかと思いますが、前に入れてもらえませんか?お願いします。』


「はぁ?具合悪いなら救急車呼べ!こっちも急いでんだよ!」


「無理無理」


何人も断られる

朝の忙しい時間

仕方ないと思いつつも私は続けた


すると、その様子を見た3番目に並んだ老人が快く入れてくれたのだ


「お嬢さん、ここに入りなさい」


『いいんですか!?ありがとうございます!』


私は男性を連れてきて老人の前に並んだ


5分と待たずタクシーに男性を乗らせる


『じゃあ、お大事に』


「ちょ、待て…!」


『運転手さんお願いします』


後ろが並んでることもあり、運転手は私が下がるとすぐにドアを閉めた


『おじいさん、ありがとうございました!』


「いいんじゃよ」


世の中捨てたもんじゃない

そんな気分で足早に会社を目指した

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