雷牙
兄様が何を考えているのかさっぱり分からなかった。
「ほら、おいで。
りんに免じてちゃんと帰してあげる。」
「$|^|?^,$,^|+\+?\.#.>,!<£<=]!~」
帰すも何も、もうその女は手遅れだ。
余程兄様を憎んだんだろう。
その女は既に堕ちている。
もう二度と正気は取り戻せない。
言葉すら話せない所へ堕ちたら問答無用で討伐しなければならない。
それなのにどうして兄様はりんに本当のことを言わないんだ?
甲斐甲斐しく手遅れの女の手を取り兄様は歩き出す。
本当にどう言うつもりだ?
まさかその正気を失った女をどこかへ放つのか?
兄様は一瞬にして女と消えてしまった。
「雷牙様、火の事なんですけど私一人でもどうにかなると思うので大丈夫です。
遊雷が戻ってきたら教えてください。」
正直その方が好都合だ。
「あぁ、分かった。
俺は少し外すがすぐに戻ってくる。
何かあればその時に言ってくれ。」
「はい、わかりました!」
りんはそう言うと白と翠の元へ行き話し始める。
俺はその隙に兄様の気配を追ってそこへ飛んだ。
「兄様。」
兄様は薄暗い森の中にいて…
「あれ?来ちゃったの?」
「$\>.$,*<‘¥$|€,^?%,!,£.+ 」
変わり果てた女を跪かせて頭を撫でていた。
愛や思いやりが微塵もないその行為に違和感と不気味さが漂う。
「何故りんに嘘をついた、その女はもう助からないだろう。」
俺が聞くと兄様は冷たい笑みを浮かべた。
「僕、りんの前では優しい男でいたいんだよ。
例え嘘をつく事になったとしても、りんにだけはよく思われたい。だからあの場ではやらなかった。」
兄様はそう言うと女の首を強く掴んだ。
女は恐怖に喚いていた。
兄様は堕ちた神すら震え上がらせるのか。
「勝手に来て、僕の可愛いりんを追いかけ回して殺すつもりだった女に寛大なフリをするのは本当に気持ち悪かったよ。
不快で不快で仕方なかった、あまりの不快さに僕が堕ちてもおかしくなかったよ?」
兄様が手に力を入れる度、女の体がボロボロと崩れ落ちて行った。
「りんを狙った奴は女でも子供でも許さないって決めてるんだ。僕のりんに何かする奴は僕が絶対に代償を払わせる。」
言葉が終わると同時に女の体は塵になり、完全無に帰した。
「兄様、この女の身内は黙っていないと思うがどうする気だ?」
今消えた女の親族は総じて強欲かつ被害妄想が激しい。この神の世ではかなり有名な話だ。
俺の言葉を聞いた兄様は動じることなく不敵に笑う。
「黙らせるのは本当に得意だから心配いらないよ。」
なるほど、楯突けば殺すと言うわけか。
だがな、兄様。
「頼むからりんが巻き添えになる事だけは避けてくれ。りんは兄様の最愛の女なんだろうが兄様の最大の弱点でもある。恨みを買えばりんを危険に晒すぞ。」
「あぁ、それならもう何も心配いらないよ。」
何か考えがあるのか?
「理由を教えてくれ。」
僕が強いからだよ、なんて馬鹿みたいな事は言わないでくれよ?
「要は、見つかるから狙われるんだよ。」
「と、言うと?」
兄様は心底嬉しそうに笑った。
「僕だけが知ってる場所に隠してしまえばいいんだよ。そうすればりんは誰からも狙われないでしょ?」
冗談だよな?
「そんなの、兄様のただの願望だろ。
りんはそんは生活は嫌だと言うに決まってる。
人形じゃない、感情を持った人なんだぞ兄様!」
「うん、その感情豊かな所がりんのいい所だよね。素直で健気で可愛くて…本当に目が離せない。りんを愛しているから僕が囲って守るよ。」
これはよくない方向へ転ぶ。
兄様のことだ、耳障りのいい言葉を並べてりんを丸め込むだろう。
りんが後悔するような事になってからでは遅い。
「兄さ」
「だからそんなに心配しないで?」
一瞬で距離を詰められた俺は心の底から思う。
しくじった。
この距離では兄様の攻撃を避けられない。
何としても俺がりんに伝えなければならないのに。
兄様はお前を一生閉じ込めて誰にも会わせない気だと。
「邪魔なんてさせないから。」
兄様はいつもより低い声で呟くと俺の額をトンッ!と一度指で弾く。
俺はその瞬間、意識を手放し深い眠りへ落ちて行った。
真っ暗な世界で踠き続けた。
落ちるな!!こんな所で寝ている場合ではない!
りんが酷い目に遭うかもしれない。
兄様の愛は異常だ。
その異常さをりんに向けてほしくない。
「あ゛ー!!!!!くそ!!!!
起きろ!!!!俺!!!」
体を見つけられない、どうやって目を開ければいいか分からない。
兄様の神力で強制的に押さえ込まれた。
情けない事に兄様は強すぎて勝てない。
くそ…どうすれば………。
ドスッ!!
嫌な音がして額に痛みが広がった。
ドスッ!!ドン!ドン!!
いや、痛い、結構痛いぞ…?
意識がはっきりしてきて目を開ける感覚を思い出した。
「ん………。」
「あ!ちょっ!ごめん!!」ドスッ!!
俺の視界は真っ暗になりかなりの痛みが額に広がる。
「……………痛い。」
俺の間違いでなければ、翠みたいな奴が俺の額を大きな石で潰していたな。
まさかほぼ不死身の俺を石で殺す気か?
「さっすが神様だなー、起きるの早い。」
翠はそう言いながら俺から石を退かした。
「全く…俺でなければ殺されているぞ、翠。」
額が割れていたが傷が瞬く間に癒えていく。
額には血だけが残りそれを手で拭った。
「こんな事他の奴になんかしないって。
それより早く戻ろう、さっきの話は全部聴いてた。」
なるほど、姿を消して着いてきていたのか。
もう俺や兄様に悟られないように気配を消せるようになったか。
思ったよりも遥かに優秀な男だ。
「そうだな、早く戻ろう。」
翠がすぐに起こしてくれたおかげで今行けばまだ間に合いそうだ。
「え!?ちょっ!え!?」
翠を担ぎ上げたら翠は大騒ぎし始める。
「俺姫じゃねぇんだけど!!
自分で着いていけるからさ!下ろしてくれよ!
恥ずかしいだろ!!」
何を言ってるんだ。
「こっちの方が早い。」
今は急ぎたい、分かってくれ翠。
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