りん
無事に怖い人を縛り上げて庭に放置した私たち。
かなりぐるぐるに縄を巻いたからきっと逃げられないと思う。
あの人のことは遊雷が帰ってくるまで放置で今私はもっと大切なことをやらないといけない。
そう、みんなのご飯を作ることだ。
遊雷がいつも食べているご馳走には足元にも及ばないけど一生懸命作ろう。
こう見えて料理は得意なんだから。
「りん、何を作るんだ?」
野菜を選ぶ私に白が聞いた。
「あるもので作らないといけないからなぁ…。
うーん、この材料だと味噌鍋とかになるかな?」
お肉も魚もないけど、野菜だけ煮込んでも美味しい。
それにここはすごく新鮮で立派な野菜が多い。
素材の味が十分に出ると思うからきっといつもより美味しくできるはず。
「味噌鍋か。
遊雷様も雷牙様もきっと気にいると思うぞ。」
じゃあ白も味噌鍋好きなのかな?
「味噌鍋美味いよなー。
俺もなんか手伝うから遠慮せずに言えよな。」
翠がそう言ってくれるのはありがたいけど、私は一人で作りたい。
初めて振る舞う料理だからね、ちょっと気合いが入ってるの。
「ここは一人で大丈夫だよ。
それよりあの人の事少し離れたところで見張っててくれてたら嬉しいな。」
逃げないとは思うけど逃げたら本当に厄介なことになりそうだから。
「おう!任せろ!」
「俺たちは行くけど何か手伝いがいる時は呼んでくれ。」
翠はさっさと行ってしまい、白は最後まで気を遣っていた。
「うん、ありがとう。
二人とも本当に離れて見張をしてね?
気を付けてね?」
私たちがたまたま気絶させれただけで相手は神様だから。
「あぁ、大丈夫だ。
神の怖さはよく知ってる。」
白は少し悲しそうに言った。
桜華様とずっと一緒にいた人にかける言葉じゃなかったかな。
「白、もうあの人に人生を左右されることはなくなる。
もう悪い事なんて起きないよ、私達もそうならないように頑張るから。」
友達として、出来ることは何でもするからね。
「あぁ、大丈夫だ。俺は前とは違う。
俺は一人じゃなくなった。りんや翠がいるからきっと何とかなる。」
強がっているようには見えなかった。
嬉しいな、本当にそう思ってくれてるんだ。
「じゃあ俺も行くから何かあったら呼んでくれ。」
「うん、ありがとう。」
白は私の返事を聞いたらすぐに翠の後を追った。
とりあえず全ての野菜を切り、細かくなったもので出汁を取ろう。
生前は本当にお金がなかったらよくこの方法で出汁を取っていた。
何ともこれが結構美味しい。
薪を運び火おこしをして本格的に料理を作り始めた。
野菜に火が通り、味付けを終えて煮込んでいると…
「っ!!!」
誰かが私を後ろからふわりと抱きしめる。
いきなりで驚いたけど、誰かなんてすぐに分かった。
「お帰りなさい、遊雷。」
「ただいま、りん。」
私の愛しい神様だ。
「やっとここに帰って来たね。」
遊雷は少し苦しいくらいの力で私の体を捕まえていた。
「もうどこにも行っちゃ駄目だよ?」
遊雷は優しく言うと私の耳に口付けをした。
甘い雰囲気に流されそうになった途端思い出した。
「遊雷!」
「わ、びっくりした。」
私がいきなり大声を出すものだから大好きな神様を驚かせてしまった。
「ごめんね、でもどうしても言っておかないといけないの。実はお庭にその…女の人がいるの。」
遊雷は怒るだろうか。
いくら遊雷が別れを告げた相手とは言え一度は恋仲になってるんだよね?
私がしたことを言えば減滅されてしまうかな?
壺の事だって謝らないと…
「へー、そうなんだ。」
あれ?あんまり興味なさそう…。
「その…私ね、その人に少し酷い事をしてね?
で、でも、悪意があったわけじゃなくてむしろ向こうの方が悪意があって…
壺だって本当は壊す気なんてなかったと言うか…。」
どうしよう、怒られるんだと思うと怖くてまともに説明ができない。
私が滅茶苦茶な説明をしているにも関わらず遊雷は全く怒らず、優しく私を遊雷の方へ向き直らせた。
「ゆっくりでいいよ。
りんは何をしたって僕が許してあげるし守ってあげる。」
胸の一番深い所が甘く痺れた感覚がした。
「本当?本当に怒らない?」
私が不安塗れで聞いたら遊雷は私に口付けした。
「うん、怒らないよ。
僕はりんにだけは優しいからね。」
そうだよ、遊雷が怒るはずない。
遊雷は私を否定したりしないんだから。
「あのね…頭のおかしい女の神様に追いかけられたから、白と翠とお屋敷中を逃げ回って最後にはその人の頭に壺を投げつけたの。」
遊雷はきょとんとした後…
「っ………あははははははっ!!!!」
これまでにないくらい大笑いした。
「ちょっ…そ、そんなに笑うことじゃないよ!?」
「あっはははははは!!
あ゛ー、笑った笑った。」
遊雷は笑いすぎて涙目になってる。
「僕のりんはとんだお転婆だね。
りんが怪我をしてないならそれでいいよ。」
や…優しい…好き///////
「ありがとう…遊雷。」
「でも…。」
遊雷が突然目の色を変える。
私の腰を片手でグッと引き寄せて顔を近づけられた瞬間私は耳まで真っ赤になった。
「僕のりんを追いかけ回した女は許せないなぁ。ちょっと説教するからその女のとこへ案内して?」
あ…あれ??
優しい…?のかな…?
もちろん断ることはできない。
そんな雰囲気ではない。
別に大丈夫よね?
殺気は痛いほど感じるけど殺すとは一言も言っていないし。
「う…ん。
で、でも、火をかけたままここを離れるのはちょっと…。」
私がそう言うと火が物凄く弱まり炭だけが赤く輝いていた。
「これで大丈夫。
戻ってきたらまた僕が火をつけてあげるよ。」
神様って、遊雷って本当にすごい。
火を操るなんて私には何が起きても出来ないことだわ。
「分かった、ありがとう遊雷。
案内するね?」
「うん。よろしくね。」
私が遊雷を案内する頃には、お庭に雷牙様がいた。
雷牙様は先にいた白と翠と話していたけど私達にすぐに気がつく。
「兄様、りん。」
雷牙様は優しく笑いかけてくれた。
言葉はなくてもちゃんと分かる、雷牙様が身を案じていてくれてたって。
雷牙様の瞳はいつも優しい。
「!\*~>~*?{€,+,!|€\?\*.?|^~」
優しい空間は縛り上げられた女の呻き声によって終わりを迎えた。
「まさか屋敷に押しかけて僕のりんを追っかけ回すなんてね。呆れた女だよ。」
見上げた横顔に、容赦はなさそうだった。
「遊雷。」
私が遊雷の着物の袖をそっと掴むと遊雷は表情を柔らかくして私の方を向いた。
「ん?どうしたの?」
あまり怒らないであげてほしい。
きっと、好きすぎておかしくなっただけなのよ。
この女の神様は怖くて仕方ないけど、もう私たちが痛いことをしてしまったしこれ以上酷い事はしなくていいと思うの。
「この人をちゃんと家に帰してあげて?
私達は少し脅かされただけで酷いことはされてないの。優しさを見せてあげて?」
遊雷を愛しすぎただけの神様なんだから。
「りんの頼みなら助けるしかないね。」
「おい、兄様!」
何か言おうとした雷牙様にサッと手を上げて制した遊雷。
「だけどね、りん。
帰ってきたら僕と少し話をしよう?」
話?
「うん…。でも、何の話なの?」
ここではできない話?
「それは後で分かるよ。
それより、鍋の火は雷牙に付けてもらって?
遠い所へ連れて行かないといけないから少しだけ時間がかかりそうなんだ。」
遊雷の力でも時間がかかるなんてきっとすごく遠いところなのね。
「うん!分かった、気を付けてね!」
この時の私は想像すらしていなかった。
まさか遊雷にあんな事をされるなんて。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます