翠
本当に次から次へとどういう事だよ!
「遊雷様は惑わされているだけよ!!!
あ゛ぁぁあぁあ!!!!」
話が通じる相手じゃない。
女は包丁を俺に向け突っ込んできた。
「っ!あっぶね!!!」
俺はそれを咄嗟に避けて地面に転けた。
膝擦りむいて痛ぇんだけど!!!
本当に頭来た!!!
「アイツに捨てられた女か何かは知らねぇけど頭おかしいんじゃねぇの!?
だいたい!自分の思い通りにならないからって他者を傷つけるなよ!!!
包丁を人に向けるなんて論外だからな!!
恥を知れ!恥を!!」
「い、言い過ぎー!!!」
りんは焦ったように言った。
「いいや!言い過ぎくらいが丁度いいんだよ!!自分の幸せの為に他者を傷つける事は俺が絶対に許さない!分かったか!!鼻血女!!!」
よし!言った!!すっきりした!!
けど……
「このクソガキぃぃいい!!!!!!!
私を侮辱しないでぇぇえ!!!!!」
死ぬ程怒らせちまった!!
こうなったらやることは一つ!
「逃げるぞー!!!!」
言いたい事も言ったし後は逃げる事しかできない!!
俺は素早くりんと白の間に入り二人の手首を掴んで走り出した。
「おい!無茶だ!翠!」
「そうだよ!相手は神様なんだよ!?」
もちろんわかってるさ!
「大丈夫!!
俺らの姿は見えねぇようにしてあるからさ!」
森に逃げようかとも思ったが、一度森で逃げようとして大失敗したから今度は屋敷の中で鬼ごっこだ。
それに、屋敷の中なら俺はかなり強くなる。
なんてたって俺はこの屋敷の座敷童だからな!
「待てぇぇええええっ!!!!」
「ほ、本当か!?
あの感じからしたら見えてそうだぞ!」
「翠!よく見てよ!
あの人絶対見えてるって!
しっかり私たちを追いかけて来てるよ!?」
「それは俺たちが騒がしいから声のする方に来たんだよ!
俺がいくら優秀でも声は隠せないからな!
静かにしてりゃ大丈夫だって!」
「「分かった!!」」
二人は息ぴったりだな、仲良しさんで俺は嬉しいよ。
「「「………。」」」
ドタドタドタドタ!!!!!!
うん!まぁそうだよな!足音しちゃうよな!
三人分の!
しかもここ廊下だから信じられないくらい音響くんだよな。
「待てぇぇええ!!!!!
全員殺してやるぅうううっ!!!!」
いやぁ、本当に頭おかしい女だ。
白があの女は、遊雷様に捨てられたとか言ってたけどそもそもなんてあんな女選んだんだ?
まぁ、昔の事らしいし見る目がなかったんだろうな。
「遊雷様を返せぇぇえ!!!!!」
にしたって酷いな。
早くあの兄弟帰って来ねぇかな。
少し走っていると曲がり角に出る。
俺は角を曲がってからすぐに両手を離し大きく広げて背中側の壁に二人を押し付けた。
息を殺し静かにしていたら鬼の形相の女が物凄い速さで角を曲がり俺たちを通り過ぎる。
本当に目が血走ってて怖いな。
アイツ神様じゃなくて下級妖怪なんじゃねぇの?
女の姿が見えなくなったのを確認して俺は二人に話しかけた。
「ゆーっくり物置部屋行こうぜ。
鍵もかかるし秘密の出入り口もある。」
二人は何度か頷いた。
手を掴んだまま、盗人のように三人で忍足をしてゆっくり進んでいたら…
「「「っ!!!」」」
俺たち三人は恐怖のどん底に突き落とされた。
通り過ぎたはずの女が何故か目の前にいる。
一瞬で俺たちの目の前に現れて、目を気持ち悪い程開いてフラフラと揺れていた。
「遊雷様…遊雷様…遊雷様……」
女の目から黒い涙がポタポタと廊下に落ちる。
落ちた涙は一人でにぶくぶくと動き廊下の床を少しだけ溶かした。
この涙、触ったら大変なことになるやつだ、もう見ただけで分かる。
「狡いっ…狡い狡いっ…!
お前だけ…っ…私はこんなに好きなのにっ…!」
だから何なんだよ、自分勝手な奴だな。
一方的に好きで、同じ気持ちが返って来なかったら恨むとか自分勝手すぎるだろ!
俺もそんな風に自分勝手に生きてみてぇわ!!!
「殺してやるっ…殺す…殺す!!」
虚ろな目からスッと光が消えた。
一周回ったとはよく言ったもんだ。
怒りや恨みを通り越して突然冷静になる。
俺としては猪みたいに猪突猛進してくれてた方がいい。
馬鹿相手の方が楽だからだ。
と言う事で、怒らせてみたいと思います。
それはそれは信じられないくらい怒ってもらって正常な判断力を奪おう。
こんなしょうもない神でも神は神、真っ向勝負は絶対無理だ。
怒らせて、暴れさせて、疲れさせて、戦意喪失させてやる!
「必殺!!!!」
俺が大声を出すと同時に手を離したら両隣の二人がビクッと跳ねた。
「爺ちゃん直伝!!踵落としー!!!!!」
このかかと落としで痛がらなかった奴を見たことがない。
存分に痛がれよ、身勝手女!!!
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