りん
負けた女が何か喚いていた。
何を言われようと私は遊雷の事しか信じないのに。
それより腹が立つ。
「遊雷は化け物じゃない、遊雷は私には優しい。自分が優しくされなかったからって化け物扱いしないで。」
私以外は遊雷を化け物と罵り恐怖の対象として見るだろう。
だけど私は違う。
言ったように、遊雷は私には優しいし私を愛してくれる。
優しくしてくれて、愛してくれたのは遊雷が初めてだった。
だから私は遊雷を愛したの。
遊雷の中身を一つも愛そうとせず、遊雷を手に入れようとしたツケが回ってきたのよ。
「何を言われても私は遊雷を信じるし、誰にもあげないからご安心を。」
「お前も大概狂っているのね。」
狂っていたら何だって言うの?
私は死ぬ瞬間もその後も変わらず遊雷を愛していた。
狂気に満ちた愛で何がいけないの?
「僕ら狂ってるらしいよ?」
遊雷はおかしそうに私に聞いた。
きっと私と遊雷は同じことを考えている。
「二人一緒に狂ってるのならいいじゃない。
ずっと二人でいればいいんだから。」
私の答えがお気に召した遊雷は嬉しそうに笑みを見せた。
「そうだよ、みんなが僕らのことをおかしいって言うならそれが一番だよね。」
気分が良かった。
この言葉にできない高揚感は何だろう。
それと同時に私の温かい部分がすり減っている。
本当に不思議な感じ。
私このまま、どうなってしまうの?
私たちが話していると一人の男が現れた。
怖い顔をしたその男がすぐに閻魔様だと分かる。
「あ、いい所に来たね。
今の話、全部聞いてたならその女を地獄に送ってくれる?」
遊雷はニコニコ笑いながら閻魔様に言った。
「今回のことで意義があれば今聞く。」
閻魔様は桜華様に聞いた。
「意義はありませんが罪状を伺いたいです。」
太々しい態度、分かっているのかな?
あなたは死ぬのよ、桜華様。
「贄の強奪未遂、神々の拉致、殺害。と言ったところだ。
公式的な場で改めて審議を下しても良いが結果は変わらんだろう。
これら全ての証拠を、雷神の弟と贄の白と言う男が出してきた。もう逃げ場はない。」
雷牙様と…
「白…?」
白もここにいるの?
あれから桜華様の怒りに触れていたらどうしようかと思っていたけど無事だったのね。
ほっと胸を撫で下ろしたら視線を感じる。
それはあまりにも恐ろしいものに感じた。
「ねぇ、りん。アイツが気になるの?
今僕と一緒にいるのに?」
体中を走る恐怖で、遊雷の神力が私の体の隅々に行き渡っていると気付くことができた。
遊雷の嫉妬の感情が流れ込んでくる。
苦しくて憎くて悲しくて、でもそれ以上に愛おしい、そんな味わいたくない感覚が。
私はすぐに遊雷の目を見て言った。
「遊雷が一番大事よ。
白より遊雷の事が好きなの。」
私の言葉を聞いた途端、遊雷の嫉妬は消え失せた。
ふと桜華様に視線を戻すと、閻魔様に炎に塗れた手枷をかけられていた。
「地獄へ連行する。」
本当に堕ちてしまうんだ、あの人が。
同情はしなかった。
可哀想だとも思わない。
私と遊雷を引き離そうとしたから、そのばちが当たったのよ。
「ふふ♪」
私、本当にどうしたんだろう。
こんな時に笑ってしまうなんて。
自分らしさがどんどん消えていく。
戸惑う中、突如燃え盛る大きな門が現れた。
初めてみたけどちゃんとわかる。
あれは地獄の入り口で酷く恐ろしい場所だって。
「地獄から見ているわ、お前たちが互いを憎み合い破滅していく様をね。」
桜華様は最後まで太々しく言い放つと閻魔様とともにその門をくぐる。
二人が炎の中に消えた途端、門も消えてさっきと同じ景色に戻っていた。
その後すぐに…
「りん!兄様!」
「「りん!!」」
私たちの前に雷牙様と白と翠が現れた。
「あ、お揃いだねー。」
私はすぐに立ち上がり、白と翠の所へ行こうとした。
もちろん、遊雷がそんな事を許すはずもなく立ち上がった私の腕を取る。
「りん、"ここに座って"?」
遊雷が自身の膝をぽんぽんと叩いた。
そうだ、私は遊雷の膝の上に座らないといけない。
「うん!」
私が喜んで遊雷の膝の上に座ると、遊雷は嬉しそうに笑い私に口付けをした。
「なっ…!何をしているんだ!
やめろ!全く!!!」
雷牙様は白と翠の目を咄嗟に隠していた。
「僕らがいいならいいよね?」
「うん!」
雷牙様とふと目があった。
「りん…お前…。」
何?私何かおかしいの?
「兄様!やめろ!今すぐに!!
りんから感情を奪うつもりか!」
雷牙様は何に対してそんなに怒ってるの?
私の感情を奪う?何のこと?
「人聞きが悪いね、りんはこう見えてついさっきまで死にかけてたんだよ?
だから僕の神力を流してるのに。」
「もう十分だ!
それ以上神力を与え続けたら体に障る!
失明したり、足が動かなくなったり…知らない訳じゃないだろう!!」
え??そうなの!?
「ねぇ、遊雷…。」
もしかしてわざとなの?
「私、歩けない方がいい?
何も見えない方がいい?」
私の目や足を壊してまで側に置きたい?
「そんなことないよ。
雷牙が怖がらせる事を言ってごめんね。
僕がりんにそんな事するはずないでしょう?」
遊雷がそう言って抱きしめてくれた瞬間、体の中を巡る強い何かが逃げていくのを感じた。
それと同時に冷たい感情や悪意までも消えていった。
「雷牙はせっかちだからね、もう少ししててもよかったのに。」
穏やかな声を聞く限り、嘘ではないはず。
「あぁ、確かに俺はせっかちだ。
大切な者の人生がかかっている時はな。」
雷牙様もそんなには怒っていないみたい。
なんて考えていた私は愚かだ。
この兄弟が私を挟んで睨み合っていたなど思いもしなかった。
「あ、そうだ。
あの山神はまだ転がったままかな?」
山神、さっき遊雷が桜華様との会話で何度か言っていた。
まさか今回のことに私の元主人が関わっていたなんて。
あの男も私を心底嫌いだったと言える。
「あぁ、ご丁寧に転がしてあったからついでに閻魔様に地獄へ送ってもらった。」
「あ…そうなんだ。
もう少しアイツで遊んでもいいかなぁ、って思ってたんだよね。」
山神で遊ぶ??
私は全く想像ができない。
遊雷はあの男をどうしたかったんだろう。
「遊んでいる暇はないぞ、兄様。
俺たちは地獄に送った側だ。
その後の手続きやらで忙しい。
三人を屋敷に帰すから一旦りんを離してくれ。」
「嫌だよ。」
雷牙様が困る気配を察知した。
「遊雷…。
私、お屋敷に帰りたいなぁ…。」
わがままな感じに言ってみた。
さっきのように振る舞えれていればいいんだけど…。
さっきは本当にどうかしていたわ。
何が私を強気にさせたのか、桜華様に物凄く楯突いていたんだから。
「帰りたいの?
じゃあ僕と一緒に帰ろうか。」
違う違う違う!!!
遊雷を残らせないといけないのに一緒に帰る流れにしては駄目!
「えっと……私、あの……」
何とか言い訳を捻り出した。
「ご飯!でも作ろうかな。
お腹空いたし、遊雷が頑張っている間に美味しいもの作っておくから一旦屋敷に帰してくれない?」
必死に考えた結果、食べ物で釣ることにした。
でもよく考えてよ、遊雷が私の作ったもので満足すると思う?
遊雷はいつもご馳走を食べてるのに。
私のしがない料理なんか口に合わないんじゃ…。
遊雷がバッと私を引き剥がした。
「それ…ほんと?」
え??何???
何でそんなに目がギラギラして…
「りんの手料理ってこと…?」
こ…怖いよ!目力がすごいよ!
「え、えっと、一応はそうなるの…かな?
で、でも、私が作った物なんて神様の口には合わな」
「そんな事ないよ!」
い、勢いが凄い…。
「ありがとう、りん!
僕、面倒事頑張ってくるね!また後で屋敷で会おうね!すぐ終わらせるから。」
遊雷は子供のようにはしゃいで私に口付けをする。
「////////」
その瞬間、私は何故か遊雷のお屋敷の門の前に飛ばされていた。
一人で顔を赤くしていると、白と翠が何処からともなく現れる。
「白!翠!」
私は遊雷がいないのをいい事に二人に飛びついた。
「おぉ。」
「りん!やめろ!見られたら殺される!
俺ら殺される!!!」
だって嬉しいんだもん、抱き付かずにはいられない。
「また会えたから嬉しいの。」
二人が無事で嬉しい。
私の数少ない友達だから。
「そうだな、俺も嬉しい。」
白もいつもより明るい笑顔で言った。
「俺だって嬉しい!
それより、りん。
早く旦那の飯作らねぇと。
アイツ、すぐに片付けるって息巻いてたから。」
旦那!?
「だ、旦那って、違うよ!
そんなんじゃない//////」
真っ赤になった私を二人がニヤニヤとした顔で見てきた。
「えー、旦那だろ?
俺らの前で堂々とあんな事してたくせに。」
翠は口付けの事を言ってるのね。
「あ…あれは…//////」
遊雷が勝手にしたことで…。
「遊雷様はお前に骨抜きにされてる。
その内娶られるんじゃないか?」
白まで私をからかって!
「贄と神様は夫婦にはなれないよ。
私は一緒にいられるだけで幸せだからいいの。」
遊雷と思いが通じただけで十分よ。
「多分アイツの事だからどうにかしてりんと夫婦になるんじゃないか?
それより俺さ、白の今後が気になってんだよな。こうなった以上、あの屋敷に住めなくないか?」
翠の言う通りだった。
「そうだよ、白。
かなり大騒ぎを起こしたし、桜華様の地獄行きの手伝いまでしたことになる。
あのお屋敷に桜華様の身内が一人でもいるなら白はきっと酷い目に遭うはずよ。」
どうにか出来ないものだろうか。
「とりあえずこっちの屋敷に避難するとかは?」
「それは遊雷様が許さないだろう。
俺は嫌われてる。」
嫌われてるのかな?
そこまで憎まれてはいないはずよ?
きっと私の境遇が似ていて仲がいいから心配してるのよ。
「私からお願いしてみるよ!
遊雷は優しいからきっと受け入れてくれるよ!」
「アイツがりんの頼みを断るわけないからな!
それが一番いいな、そうしてもらえよ!」
ほら、翠だってこう言ってる。
「……本当にありがたいが俺は殺されないだろうか。」
殺されるわけないよ!
「遊雷はそこまではしないよ!
いざとなったら私のありったけの愛嬌でどうにかするから!」
白のためなら媚を売るよ。
命懸けで桜華様を裏切ってくれたんだから。
むしろ、それくらいしないと私の気が済まないの。
私たちが話しているとどこからともなく、ボロボロの女性が現れた。
かなり古い着物で、髪はボサボサ、顔は異常なまでの
その異様な姿に私たちは固まった。
彼女は一体誰?
「お前……お前のような者が…あの人の女…?」
血走った目で私を捉えてがくっと首を傾けるその表情にゾッとした。
「や…屋敷に入れ!二人とも!早く!!
遊雷様に捨てられた女だ!」
白は彼女に見覚えがあるらしく真っ青な顔で私たちに言った。
「黙れぇぇえ!!!!!!
贄ごときが!!!!!!!
あの人は私と夫婦になるはずだったのにぃいい!!!」
「いっ!!」
「「あ゛っ!!」」
憎悪の滲んだ声は私達の耳をつんざき壊そうとする。
頭の中に直接響くような金切り声に耐えかねて私たち三人は咄嗟に両耳を塞いでいた。
「だ、誰だ!あの女!
お前の知り合いか!?」
「遊雷様に捨てられた女だ!!
見ての通りおかしい!!!」
「そんな事、面と向かって言ったら駄目よ!!」
こういう人は刺激したら大変な事になる。
なりふり構わず攻撃してくる事が多い。
その証拠に…
「包丁持ってる!二人とも気をつけて!!」
彼女は凶器を隠し持っていた。
「ちょっ!落ち着けって!おばさん!
確かにアイツは救い用のない奴だよ?
だからって俺らを刺すのは違うだろ?
刺したいならアイツ刺せって!」
彼女は興奮して歯を食いしばり鼻血を出している。
翠の言葉が届いているとは思わなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます