桜華

あの女が死んだと聞きつけたから見に来たのに、どうして遊雷様が一緒にいるの?

それに…口付けまでしていた…!!!

許さない…!!!穢らわしい者の分際で!!


口付けよりも許せない事が一つあった。

この女、図々しくも遊雷様を自分の物だと言ったの?

この私の目の前で?


「ふふっ…怖い顔。

遊雷、私あの人嫌い。」


どこか雰囲気が違う。

あの弱々しかった小娘はどこへ行ったの?

何から何まで冷たいその雰囲気は何?

何かがおかしい。


「あぁ…りんって本当に可愛い。

見てよ、桜華。この嫌そうな顔。

普段なら絶対にこんな他人を睨みつけたりはしないのに。怒った顔も本当に可愛いよね。」


女に意識を集中した。


「っ……!!」


目の奥が焼けるようなこの感覚、遊雷様の神力だ。

実際に死んだのではなく、死にかけていた時に遊雷様が来て強力な神力で命を繋いだのね。


その強すぎる神力が皮肉にも女の感情を奪っている。


人間らしさは失せ、遊雷様の冷酷な一面が女に現れていた。


「その娘はじきにあなたの神力で壊れますわ。

殺してあげるのが親切かと思いますが。」


遊雷様との関係がどうなろうと構わない。

私の人生を滅茶苦茶にしたこの女を殺す事さえできれば。


「壊れたら僕が何度でも治してあげるから大丈夫だよ。

それに…壊れたから愛さない訳じゃない。

壊れてしまったりんもきっと可愛いよ?」


まさか、あなたにこんな事を言う日が来るなんてね。


「狂ってるわ…。」


私の言葉を聞いて遊雷様は声をあげて笑った。


「一番狂ってる女に言われちゃったよ。

あの山にはかなり狂った秘密があったと思うけど?」

「っ…!!」


あそこには強力な結界が貼ってあったはずよ!

そもそも入れるはずがない。

ハッタリね。


「私に秘密などありません、陥れようとしても無駄です。」


あの結界は絶対に破れない。

遊雷様を誑かした女たちから力を引き出した結界だもの。

いくら遊雷様でもあの人数から引き出した力に勝てるはずがない。


何かあるとは睨んでいるけど中は見ていないはず。

認めれば負けよ。


「陥れるも何も事実なんだよね。

後でこの屋敷の入り口に行ってみなよ。

山神がアホ面して転がってるから。」


山神、その名が出た瞬間血の気が引いた。

結界を破らなければ山神の存在には気が付かないはず。

どうやってあの結界を突破したの?

もう…どうして何もかもうまくいかないのよ!


もしも今回あの女が難を逃れて地獄行きにならなかったら、秘密裏にあの山神にくれてやるつもりだったのに…!


全てが嫌になる、あの女も、あんなに欲しかった遊雷様も。


憎しみしか湧いてこない…私はずっと遊雷様を愛していたのに!!!

山神との共謀、これで私は地獄に送られる。


だけど…二人で幸せに、なんて許さない…!

この二人を引き裂いてやる!!


「こうなってしまった以上、私も意地悪を言うしかありませんね?

遊雷様は一人の女に留まることのできない節操のない男。

あなたに泣かされた女を何人も見てきました。

特にあの娘は気の毒でしたね?

楓、とか言いましたか?」


私がとある女の名を出すと遊雷様の表情が険しくなる。

余程知られたくないのね、だったらここで全て言うしかない。


「さぁ、誰のことだろう。」

「あの子ですよ、あなたと生涯を共にすると豪語していたあの子。

生娘を弄ぶのは楽しかったでしょう?

何もかも捨てて遊雷様と一緒になると息巻いておりましたわ。

でも、代わりが見つかってよかったですね。

無知な贄を騙すのは簡単だったでしょう?」


贄は冷たい表情を一変させ不安そうに遊雷様を見上げた。


「遊雷…今の話は本当なの?」


遊雷様は焦る事はなく優しく笑う。


「"僕を信じて"?」


必死さが垣間見えた。

約束の効力を使ってまでその女を繋ぎ止めたいだなんて。


「うん、遊雷の事だけ信じる。」


さぞ気分がいいでしょう、自分の言いなりになる人形は可愛いものね。

だけどね…覚えていなさい…


「あなた達は長くは続かない。

遊雷様はすぐに他の女へ行き、捨てられたお前は惨めに死に晒すのよ。

その男に愛情なんてものはない、ただ力を持て余した化け物なんだから!!」


それでも死ぬまで愛を貫けると抜かすのならお前はとんだ嘘つきよ、贄。

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