りん

全身が痛かった。

男の人と初めて本気で殴り合った。

結果は惨敗、やっぱり力勝負では男の人には勝てないのね。

逃げ場のない痛みの中に少しの安らぎがある。


遊雷を思い出すことだ。

私はどんな状況に置かれても遊雷が大好き。

死ぬ前も死んでからも今も。

遊雷に会いたい。


今会わなければもう二度と会えない気がする。

この痛みは死に限りなく近い。


二度目の死を迎えるとどうなるんだろう。

生まれ変わることができる?

それともただ消えるだけ?


私が消えてしまったら遊雷はどうなってしまうの?


遊雷に名を呼ばれた。

ハッとして振り返ったら突然私が具現化される。

今まで思考だけだったのにどうして?



「"りん、戻ってきて"。」


暗闇に響く遊雷の声。

その命令だけは絶対に聞かないといけない気がする。

むしろ、遊雷の言う事を聞きたい。


それが私の幸せだ。


「遊雷…!」


私ちゃんと戻りたい、遊雷にもう一度抱きしめられたい。


だけど…


「遊雷、どこにいるの?」


途端に怖くなった。

そもそも帰り方などあるんだろうか。

この暗闇はどこまで続いているの?   


遊雷にただ会いたかった。


あの時と同じだ。

絶望の中で生きていた時、遊雷に出会って毎日毎日遊雷に会いたくて堪らなかった。

あの時から私の気持ちは変わらない、これからもずっとそう。


私は何があっても遊雷の元へ帰らないと。


「遊雷…!助けて!

私を助けて!このまま死ぬなんて嫌だ!

私、もっと遊雷と一緒にいたい!!

伝えたいことだってあるの!」


私は泣きながら必死に叫んだ。

どんなにみっともなくても構わない。

遊雷と一緒にいられるなら私は何だってする。


「私、遊雷が大好きなの!

遊雷のこと、誰よりも愛してるの!!

お願い…!一緒にいさせて!!」


ただ叫んで目を開けたら…


「………あれ?」


私は完全に目を覚ましていて、そんな私を抱いて座り込んでいる遊雷がいた。


「遊雷……どうしたの?」


ねぇ、遊雷。

何で泣いてるの?

私、今すごく怖い夢を見ていたの。

こうして目が覚めて本当によかった。


「僕も…。」

「え?」


何?


「僕も、りんのこと何よりも愛してるよ。」


思いもよらなかった言葉に全身が赤くなるのを感じた。


「い…いきなり…何////////」


あれ?どうして私が夢で言ったことを聞いていたの?

何だかすごく恥ずかしくなってきた。


「嬉しくて涙が止まらないなんて初めてだよ。

すごく満たされてる。」


私の一言で遊雷をこんなにも幸せにできるなんて思ってもいなかった。

そんなに幸せなら何度だって言う。


「遊雷が幸せなら私も幸せ。

私は心の底からあなたを愛してるから。」


遊雷に力一杯抱きしめられて、私まで嬉しくなった。

私も今、人生の中で一番満たされている。

もうこの人以外は考えられない。


遊雷は私の全てだ。


「もう僕から離れないで、これからは何をするにも一緒にしよう。僕の妻になって?」


今度は私が泣く番だった。


「嬉しいっ……遊雷…本当に嬉しい////」


神様と贄は夫婦にはなれない。

そんな決まりは知っているけど、どうでもいい。

遊雷が私を妻にしたいと思ってくれる程、私を愛している、その事実が嬉しかった。


「喜んで遊雷の妻になるわ。」


私はもう、あなたしかいらない。

他人なんかどうでもいい、私は遊雷のためだけに生きる。

だから…


「ンッ/////」


私の好きな時に口付けをするの。


女から口付けだなんて、はしたないと言われてもいい。

遊雷さえ喜んでくれるのなら。


遊雷が珍しく真っ赤になった。

その姿が可愛くて愛おしくて堪らない。

私達が見つめ合っていると…


「な………何で……っ…!!!」


私と遊雷の敵が現れた。


「どうして遊雷様が…っ!!!」


悔しくて堪らないと言った顔ね。

私はもう遠慮なんかしない。

遊雷と生きていくのはこの私よ。


「"私の遊雷"がいてはいけませんか?」


私の言葉を聞いた桜華様はこれまでにないくらい悔しそうな顔をした。

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