白
遊雷様は何があるか分からない五芒星の中に何の躊躇いもなく飛び込んで行った。
「兄様!本当に!!!」
雷牙様はそんな奔放な兄を見て怒り狂っている。
「白、悪いが一緒に行くぞ!
こんな所に置いては行けないからな。」
自分が足手纏いな事が嫌になる。
結局誰かに守ってもらわないと俺の命は保証されない。
自分の命くらい自分で守ってみたい。
「はい、すみません。」
「気にするな、行くぞ。」
二人で並んで飛び込むのかと思っていた。
「え!?」
俺が雷牙様に担がれるまでは。
降ろしてくれと言う前に雷牙様は動き出した。
本当に怪力だ。
俺を軽々抱えてる。
雷牙様が五芒星に入った瞬間、景色は変わり生い茂った森に到着した。
グチャッ!ブチッ!グチャッ!ブチッ!
おかしな音がする、あまり好きな音じゃない。
そして俺は雷牙様に担がれているからかなり無理をして振り返らないと雷牙様が見ている方向は見れないな。
雷牙様は何かをじっと見ているような気がした。
「雷牙様、降ろしてください。」
一体何が起こっているのか知りたい。
「白、生首は大丈夫か?」
「はい?」
この人はいきなり何を言い出すんだ。
「大丈夫なら降ろしてやるが無理そうなら向こうへ帰してやる。」
生首、そりゃ好きなものじゃない。
普通に気持ち悪いしな。
でも…
「見る分には平気です、触るのは嫌ですけど。」
「そうか、なら見てみろ。」
雷牙様が俺を地に下ろしたからゆっくり振り返った。
すると…
グチャッ!ブチッ!!
見覚えのある醜い神が遊雷様に首をもがれ、付けられ、を繰り返していた。
遊雷様はニコニコと笑っているが視線はこの世の何よりも冷たい。
「おっおゆる」グチャッ!!!
醜い神は泣いていた。
大の大人が、神が、あんなふうに泣いて許しを乞う姿を初めて見た俺はなんとも言えない気持ちになる。
神だから偉大だとか強いとか敬うべき存在だとかそんな常識が一気に消し飛んでしまった。
ここは俺が生きていた場所と同じだ。
結局は弱い者が強い者に降る、そこに神や人は関係ない。
強ければ何にも支配されないんだ。
「あの神はどうなりますか?」
雷牙様が簡潔に言った。
「聞かない方がいい。」
死ぬ、その言葉が来るだろうと思っていたが大間違いだ。
死ぬ事がきっと生温いとさえ感じるような目に遭わせるらしい。
「蜘蛛なんか使って僕のりんを虐めたんだね。
僕の大事な大事な大事な大事なりんを。
お前なんて消えればいい、お前が一人消えたくらいでこの世は困らないからね。
あーあ、本当にあの時殺しておけばよかった。
これだから嫌なんだよ、誰かに情けをかけるのは。
お前と桜華さえいなければ僕はりんを取り上げられずに済んだのに。
ここで殺してやりたいけどまだその口が必要なんだよね。
黙って僕らについて来い、殺すのはそれからね。」
今の言葉を聞いて、遊雷様は優しい時もあったんだろうと伺える。
きっとそれ以上の裏切りを経験したんだろう。
俺が同じ立場なら冷酷になるのも無理はないのかもしれない。
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