遊雷
あわよくば窒息させようと思ったのに、残念。
「わざとじゃないよ、僕がそんな事するわけないでしょ?りんのお友達に。」
憎たらしくて仕方がないよ、今すぐに殺してやりたい。
まぁ、そんな事は言わないけど。
「はぁ…全く…。」
「大丈夫です、水責めは慣れてます。」
「ゲホッ!ゲホッ!!ゲホッ…!!」
あ、女の意識が戻った。
「君はどこの誰?大丈夫?殺してほしかったら言ってね、僕それは得意だから。」
雷牙と贄が信じられないと言いたげにこっちを見てくるのは無視でいいよね。
「わ……私は……北の森の神の…………え?
遊雷様??」
え…。
「うん、初めましてー。」
だよね?
「遊雷様…私です、楓です!
三百年前、遊雷様のお部屋に行っていたではありませんか!
やはり私を迎えに来てくださったんですね!」
………そうなの?
「そうなんだー。」
「覚えてらっしゃらないんですか…?」
女は悲しそうな顔をした。
「こんな事言ったら僕の事刺したくなるだろうけど、三百年前はいろんな子と遊んでたんだ。
悪いけどあんまり覚えてないかな。」
「う…嘘ですよね…?
遊雷様…私達は愛し合っていたはずです…!
言葉にはしてくださらなかったけど、私たちの気持ちは一つだったでしょう?」
この捲し立てるような話し方で一気に記憶が蘇った。
そうだ、三百年前に僕と夜を共にして僕に異常なまでに執着した女だ。
「悪いけど楓を愛した事はないよ。
一瞬たりともね。
それに、今ここへは迎えに来たんじゃなくて別の用事で来てるんだ。」
楓がボロボロ泣き始めた。
「そ……そんな……私は…桜華様と命懸けの賭けをしたと言うのに………!
遊雷様がここへ迎えに来てくだされば許嫁の座から退くと桜華様は仰いました!!」
「もしかして桜華に直談判しに行ったの?」
たった一夜を過ごしただけで?
「はい!あなたを愛していましたから!
私はどうしても遊雷様の妻になりたかったのです!
遊雷様も同じ気持ちだから私を見つけてくださったんでしょう?」
本当に直談判しに行ったんだ。
猪突猛進とはこの事かな。
「本当に迎えに来たんじゃないよ。
僕は他に大切な子がいるからね。」
話を聞く限り、桜華に喧嘩を売ったはいいけど桜華に体よく追い払われた感じかな。
「…え…?大切な子?」
「うん、大切な子。
僕の人生の中で一番大切で愛しい存在だよ。
今日はその子のためにここへ来た。
楓を迎えに来たわけじゃないよ。」
楓は途端に豹変した。
「そんなのあんまりです!!!
私は命をかけてあなたを待っていたと言うのに!どこの神ですか!!!!どこの神に誑かされているのですか!!」
そうそう、これこれ。
この子苦手だったんだよね。
都合のいい関係でいいからと一夜を共にしたけど、その日から毎日毎日妻にしてくれと頼まれたんだっけ。
ぎゃーぎゃー騒いた楓は贄の存在に気が付いた。
「お前…その気配、まさか贄なの?」
いきなり話しかけられた贄は一度頷いた。
「っ!!この無礼者!!!
贄ならば地に頭を付けるのが礼儀でしょう!!
神を前にしているのよ!!!」
首以外埋まっているくせに本当によく喋る子だよね。
「人の思想にとやかく言うつもりはないがあんまりじゃないか?白、耳を貸す必要はないからな。」
雷牙はすぐに贄を庇った。
本当に優しいよね、僕たち血が繋がってるのかな?
神力で土から出してやると楓は地面に顔をつけ泣き喚いた。
「酷い…酷いです…!!!
私を弄んだのですね…!!」
三百年前の僕はどうして楓と寝たんだろう。
誰でもいいにしろ面倒な相手は避けていたつもりだったんだけど。
当時の僕って節穴だなぁ。
りんもこれくらい勘違いしやすい子ならよかったのに。
「うん、遊びだったよ。
ごめんね?」
りんにならここまで執着されたい。
他の女は嫌だ。
「許しません……私はあなたを許しません!!
いつか必ず後悔させます!!
私を弄んだ罪は必ず」
「うん、ごめんね?」
手を翳して楓を北の森へと送った。
さっき北の森の神とか言ってたよね?
その辺に落としておけば勝手に家に帰るでしょ。
「あぁ、喧しかった。」
清々するよ。
「兄様が最低な屑なのは十分わかった、でも一つ聞かせてくれ。
どうしてあんな女に手を出したんだ?」
「さぁ。別に誰でもよかったからじゃない?
当時の僕は本当に見る目がないよね。」
なんて雷牙と話していたら、贄が何か言いたそうだ。
怒っているようにも見える。
「男なら、言いたいことがあるなら言うべきだよ。」
それがどんなに恐ろしい化け物相手でもね。
「もしもりんに飽きたらあのように遇らうんですか?」
りんに飽きたら?
何それ?何の話?
「飽きないよ。」
そんな馬鹿な話があるわけない。
「今日のことはりんに伝えます。
あなたの気まぐれでりんを傷つけられたら堪らない。」
昔の僕のしてきた事は帳消しにはできない。
特に悪いことをしたとも思わないしこれから先もそう感じることはないと思う。
でもね…
「りんが知る必要のない事だよ、これは。」
昔の僕のことはりんには知られたくない。
贄の記憶を消そうと手を動かした瞬間、五芒星の中から土蜘蛛が現れた。
「兄様。」
「うん、何か出てきたね。」
これは間違いなく、どこかから送られてきたものかな。
と言う事はあの五芒星、どこかに繋がってる。
ちょっと行って調べてみようか。
もしかしたら第三者がいるかもしれないし。
雷牙が出てきた土蜘蛛に雷を落としたら土蜘蛛は粉々に砕けて灰になった。
僕はその瞬間、五芒星の中に飛び込む。
「あ!!兄様!!!」
もちろん、雷牙の静止は聞かない。
さて、どこに繋がってるのかな。
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