雷牙
不気味な森の奥へと足を進めているとそこら中から嫌な気配がした。
ただの妖怪、で片付けるにはあまりにも気配が邪悪すぎる。
「そこです。」
白は藪の中を指した。
一歩入るとたちまち残穢が体に纏わりつく。
気持ち悪いとしか言いようのない感覚だ。
「女の死体しかないね。」
兄様はこの惨状に動じることなく進んで行った。
「わー、あっちなんて骨になってるよ。
かわいそー。」
兄様が絶対にそんなこと思っていないと言うのはとりあえず置いておく。
「本当に気の毒だ。
女たちも問題だが一番の問題はこれだな。」
今、俺の足元に広がっている血で書かれた五芒星。
こいつが諸悪の根源だ。
「これどうする?壊す?」
壊したい所ではあるが…
「簡単に壊せないだろう、物凄い力を感じる。」
何なんだ、この神力のような残穢は。
「まぁ、確かに厄介だよね。
ただの残穢にしては強すぎる。
もしかしてそこで埋まってる女たちが関係あるかな?」
兄様がふとまだ腐敗途中の女の顔を指差した。
「おい、兄様。
指をさすな、死者へのぼうと……く………」
あの顔、見覚えがある。
「あれ?雷牙固まっちゃった?
大丈夫ー?」
気のせいか?いや、気のせいじゃないよな…?
「雷牙ー?もしかして知り合い?」
俺の知り合いではない。
「兄様の知り合いだ。」
「残穢で頭おかしくなっちゃった?
こんな女は知らないよ。」
いや、よく知ってるはずだ。
「五百年前に兄様と関係を持った女だ。
当時いきなり消えたとか言ってなかったか?」
兄様のニコニコした顔を見る限り覚えていなさそうだな。
「消えた子は一人じゃないからね、雷牙がそう思うのならそうだと思うよ。」
適当か!!
「どうしてそう冷静でいられる!
自分と寝た女が生き埋めにされて殺されているんだぞ!?」
少し驚くとか憐れむとかあるだろう!
「そうだね、少し気の毒だと思うけど何も感じない。
僕はそれよりもりんに会いたいから。」
そうだ、兄様はりん以外に興味がないんだったな。
「分かった、じゃあこの話は終わりだ。」
「うん、そうしようか。」
俺たちが話していると、白がそっと口を開く。
「あの、あそこに埋まってるのが…動いてるような気がするんですけど。」
白が気味悪そうに言って指差した先にあるのはまだ腐敗していない女の首だ。
「うっ…………ううっ………。」
白の言う通り、地面に埋まった首は苦しそうにうめき少し動いている。
「うわぁ、気持ち悪。」
「もう黙ってろ、兄様。」
「あれどうする?
可哀想だからトドメを刺してあげる?」
なぁ、兄様。
「どうして助かるって選択肢がいつも出てこないんだ?
本当に大丈夫か?
心底不思議で堪らないぞ、思いやりはどこへ捨ててきた?」
りんに優しくできるなら他者にもできるはずだ。
「僕は優しいからトドメを刺そうと言ってるんだよ?
ほら、苦しそうだし。」
違う……どうしてこうも違うんだ、兄様。
「と…とりあえず起こしてみましょう。
もしかしたら寝ているだけかもしれません。」
「あぁ、その言葉が欲しかった。」
白は近くに落ちていた少し太めの木の枝を取った。
「あ……あの……起きてください。」
白は木の棒で、うめく女の顔を何度かつついた。
「うっ…………ず………み………ず……。」
水?
この女は水が欲しいのか?
「あぁ、喉乾いてるんだね。
はい、どーぞ。」
兄様が優しさを見せたのだと思った。
バシャーーーーー!ッ!!!!!
「兄様ー!!!!!」
兄様が滝さながらの水を作り出し、頭からかけなければ。
「え?水が欲しいんでしょ?」
とぼけるのも大概にしろ!!
「限度ってものがあるだろう!!
見てみろ!白までずぶ濡れじゃないか!」
わざとか!?まさかわざとじゃないだろうな!!
本当に兄様は一体何を考えているんだ!!
「ありがとうございます、雷牙様。
俺は大丈夫です。
差し出がましいようですが、遊雷様。
ここに埋まっている神々は全員あなたが手を付けた女だと思うんですけど。
あの女は嫉妬深いので、遊雷様に好意を寄せる女をこうしてここに埋めていたんじゃないでしょうか。」
贄の言う通りだと思った。
むしろ、それ以外に思い浮かばない。
「多分そうだろうねー。
みんな僕と遊ぶのに飽きてどこかに行っちゃったと思ってたけどそうじゃなかったんだね。」
やっぱり桜華って頭おかしかったんだ。
僕といい勝負かも。
「え……?
ここにいる者は…」
かなり衝撃を受けているね。
この際教えてあげようかな。
「そうだよ、みんな僕が遊んだ子。
好きでも何でもない、一夜限りの相手。
愛し合ってたとか寝ぼけた事言ってたけど、楓のことを愛していたらこんな所に三百年も放置しないよ。
面倒くさいから本当は殺したい所だけど、寝たよしみで助けてあげる。
もう二度と僕の前に現れないでね?」
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