遊雷

僕が声をかけると、二人を抱えた雷牙が地に降りてきた。


「助かりました、ありがとうございます。」

「俺も一応礼言っとくわ、最後は何で死にかけてたか分かんねぇけど。」


贄は素直に礼を言い、座敷童は一応礼を言った。


「二人とも無事でよかったね?」


雷牙がいなければ二人とも消し炭だったんだろうな。

何なら贄の方は完全に狙ってたし、雷牙に邪魔されちゃった。


「あ、それはそうと助けてくれよ。」


座敷童はすぐに切り替え僕らに頼み事をしてきた。


この感じからこの二人が手に負えないことが起きているのは分かる。

この座敷童なんてここに立っているのも不快だろうなぁ。

僕ですら肌がピリピリ痛む。


「一体何があった?

それは二人ともどうしてそんなにボロボロになってる?」


雷牙は二人を見て聞いた。


「あぁ、最初から話すわ。」


別にどこから話しても構わない。

ただ…


「手短に頼むよ。」


一秒でも早くりんに会いたい。

正直もう、正気を失いそうなんだ。


「手短に?了解。」


座敷童は僕に言われた通り、その後本当に手短に状況を話し始めた。


「ここの入り口の結界に二人三脚で突っ込んで、俺が具合悪くなって、白が一人で奥に行って土蜘蛛引き連れて逃げてたら次は雷神に殺されかけたけど雷神に助けられて今に至る。」


なるほどね、この奥に何か見つけたのか。


「へぇ、でもさすがは座敷童。

本当に運がいいよ、僕たちただ様子を見に来ただけだからね。」


やっぱり待ってるんだろうなぁ。


「白が奥へ行ったと言ったな?

何かおかしなものはあったか?」


雷牙が贄に聞いた。

贄はようやく重い口を開く。


「おかしな物がありました。

真っ黒な何かで地面に何か描かれていて、その周りには首から下を完全に埋められた女の死体が数体、近付こうとしたんですけど張ってあった蜘蛛の糸に触れてしまってこのザマです。」


贄の状況説明を聞いて僕と雷牙は顔を見合わせた。


ここへ来てそんな物騒なものに出会うとは思わなかった。


「だいたいの事は分かった。

俺と兄様でどうにか対処してくるから二人はここで待っていてくれ。」


えーーー。


「僕も行くの?

雷牙一人でどうにかできるでしょ?」


僕は本来の目的をここで果たしたいんだけど。

僕らがたまたまここへ来たのには理由がある。


桜華を失脚させるために手懐けたあの男が、桜華に命じられて殺した神の記録を持っていると言っていたからそれを取りに来た。


「古代の儀式だぞ、しかもこの感じからして桜華がやっている事だ。

確かに俺一人でもいいが、あの女をなめてかかると痛手を負う気しかしない。

だから念の為に着いて来てくれと言っている。」


あぁ、なるほど。

一人じゃ怖いってことね。

かなり珍しい事言ってるの気付いてるかな?

 

「分かったよ、そこまで言うなら僕も行こうか。

ほら、早く案内して?」


贄に話しかけると、贄は一度頷いて僕らの先頭に立つ。


「翠、お前はそこにいろ。

何かあったらすぐに逃げるんだぞ、いいな?」


「はーい。」


雷牙って本当に気が回るよね。

僕はりんしか興味ないからなぁ。

早くりんに会いたい。

その為にも桜華の行いの証拠を用意しないと。

その後、桜華を殺そう。


まさか僕が桜華を殺す算段を立てる日が来るとはね。


「白、お前は本当に大丈夫なのか?

ここはかなり穢れた場所だが…。」


雷牙が不思議そうに贄に聞いた。


「はい、俺は何も感じません。」


足を進める程濃くなる残穢。

他人に幸を齎す座敷童なんてここに来たらのたうち回るんじゃないかな。


実際、顔色が悪かったし相当気分が悪かったんだろうな。


それにしても視線が気持ち悪い。

土蜘蛛がそこら中にいる。

さっき殺した奴らとはまた違う、もっと邪悪な感じがした。


それより不思議なのはこの贄なんだよね。


今は僕と雷牙がいるから納得できるけど、さっきも一人でここまで来てどうして襲われてないんだろう。


いっそ、そのままくたばってくれてよかったのに。

それか周りの奴らを殺すついでに殺そうかな?

たまたま当たっちゃったなら仕方ないよね?


「兄様。」


あ、雷牙に勘付かれた。


「何?」


「それはりんが許さないだろう。」


雷牙って実は体の至る所に目が付いてたりする?


「何の事?

僕はよく分からないなぁ。」


本当に察しが良すぎて嫌になるよ。

雷牙が一緒にいる時に贄を殺すのは無理かな。


「それより急がない?

早くりんに会いたい。」


僕はこの時知らなかった。

と言うより、認識が甘かった。


りんは僕のものだから、みんな僕が怖いから、だからりんには何もしないだろう、そんな事はただの僕の願望で理想だったこと。


僕らが呑気に正攻法でりんを取り戻そうとしていた事がりんの苦しみを長引かせるだなんて思ってもいなかった。

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