翠
白は俺が思っていた以上に肝の座った男だった。
本当に男気ある奴だ!なんて思っていた。
俺は本当にいい友達を持った、吐き気を耐えながら空を見上げてそんな事を考えていると何か聞こえてくる。
「いー!!!!ろー!!!!
おい!!!!早く!!!!!」
誰かが少し離れた所で騒いでいるんだろう。
気分が悪くてくたばっている俺はそう思った。
まさか白が三分足らずで帰ってくる訳ないからな。
「翠ー!!!
早く起きろ!!!逃げるんだ!!
早く!!!!」
いや、これアイツの声だ、白だ。
俺はすぐに声がした方に視線をやった。
「はぁ!!!?」
そしてこの上なく間抜けな声を上げる。
「早く行け!!
早く走れ!!!
早く!!!!」
「お、おおお、おう!」
白に腕を掴まれ半ば強引に立ち上がらされた俺は状況が理解できないまま白とともに全力疾走する事になった。
ただ一つ理解が出来るのは白が森の奥から土蜘蛛の大群を引き連れてやって来たことくらい。
「な、なぁ!お前何したんだよ!
何であんな事に!!!」
俺は走りながら隣の白に聞いた。
「知らん!!蜘蛛の糸に引っかかったと思ったらいきなり湧いて出てきたんだよ!!!」
蜘蛛の糸に引っ掛かったら湧いて出てきた…?
「そりゃ罠だ!!!!
土蜘蛛はそうやって縄張りを守るんだよ!!!」
これだから俺は!!!
白に最初から説明しておけば…!!
俺は大馬鹿野郎だ!
「そうなのか!それはすごいな!案外賢いんだな!!」
言ってる場合かー!!!!
今俺ら追いかけられてんだぞ!?
土蜘蛛の生態に感激してる場合じゃねぇんだよ!!
「うわぁああ!!!
どこまで追いかけて来るんだ!!!!」
そもそもどこからどこが縄張りなんだよ!
て言うか俺ら何で見えてんだ!?
雷神の弟に見えないようにしてもらったのにー!
「とにかく来た道を戻ろう!!
捕まらなければ平気だ!!」
白!なぁ、白!
分かってんだよ!捕まる気はねぇよ!?
でもさ…
「アイツら足速すぎなんだよー!!!
てか足何本あるんだ!気持ち悪い!!!」
そもそも蜘蛛嫌いなんだよ!俺!!
「見たところ六本だ。」
「真面目か!!!
いいんだよ!何本でも!!!
て言うか冷静な!お前!」
俺なんてもう慌てふためくくらいしか出来ないのに。
「いや、違うんだ。
一周回ってもう訳がわからなくなってる。」
「諦めるな!!まだ希望はあるぞ!!
そんな遠い目をするんじゃねぇ!!!」
「今思えば、それなりにいい人生だったかもしれない。
死に方は最悪だったが友達ができた。」
は!?何!?最期の言葉か!?
「いっ!嫌だ!!
俺は聞かないぞ!そんな事!!
俺らは長生きするんだ!!!」
そもそもここで死んだらりんだって殺されちゃうだろ!?
「長生きか……、あまり考えたことはなかったな。」
「考えろよぉぉお!!!!!
短命なんて冗談じゃねぇ!!!」
頼む誰か何とかしてくれ!
俺は必死に天に叫んだ。
「どの神でもいいから助けてー!!!!」
俺の叫び散らした祈りが届いたように、雷鳴が轟く。
真後ろでは大きな落雷の音が響き、俺達は誰かの手によって脇に抱えられ宙を浮いていた。
「「???」」
俺と白はその何者かの胴体を挟んで顔を見合う。
何?え?どう言った流れで??え???
「兄様!!!
正気か!!!
二人に当たったらどうするつもりだ!!」
ここで神様の登場。
俺と白は心の底から安堵した。
「「雷牙様〜。」」
本っ当に頼りになるな!!!
「二人とも怪我はないか?」
はい、もう満点。
「俺はない、白は?」
妖怪だから少々問題ないけどな。
「ない。雷牙様、ありがとうございます。」
俺も礼は言わないとな。
「ありがとう、本当に助かった。」
俺は礼を言った後、さっきまで走り回っていた地面を見た。
辺り一面、土蜘蛛の死骸や灰まみれになっていた。
その中に立つ異様な程神々しい存在。
今俺と白を軽々持ち上げているコイツの兄貴。
あんなに大量にいた土蜘蛛たちをたった一撃で全滅させたらしい。
どの神でもいいからって思ったけど、まさか一番怖いのが来るとはな。
「降りておいで、ぜーんぶ死んだよ。」
あぁ、見れば分かる。
そして、その稲妻がほんの少しでも当たれば俺らは大怪我してるか死ぬとこだった。
雷牙様が来なかったらと思うとゾッとするな。
「すまない、兄様は本当に配慮のない男なんだ。」
あぁ、知ってる。
「りんにしっかり言いつけとくわ。」
「命が惜しければやめておけ。」
雷牙様は少し笑いながら答えた。
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