翠がいきなり素っ頓狂なことを言い出して俺は混乱していた。


俺は確かに翠の役に立ちたかった。

まさかそれが二人三脚なんて形で現れるとはもちろん思っていなかった。


ちなみに俺たちの足は、翠の袴を千切った物で結んでいる。


おかげで翠は片足の袴だけが少し短い残念な感じになっていた。


「こ!れ!で!よし!」


翠は見た目よりも怪力だ。

しっかりと結ばれた足首が痛い。


「いいか!白!

俺たちは今からその草ボーボーに突っ込む!

とんでもない力で弾き飛ばされるだろうがめげるなよ!!

右足からだ!せーの!!!」


え?右?右足??


言われた通り右足からちゃんと出した。

でも…


「「うわぁあ!!!」」


俺たち互いの足がもつれて地面とぶつかる。


「いってー!!右足だって!!」

「右足を出したぞ!」


なんて間抜けなんだ、俺たちは。


「あ、違ったわ。

俺の右足と白の左足がくっついてるんだった。

悪い悪い、縛った方の足からな!」


翠はケラケラ笑っていた。


「全く…縛った方の足だな。」


「そうそう。

気を取り直して、せーの!!」


言われた通り、縛った足からちゃんと出したが結構難しい。


「「一、二!一、二!!」」


二人で声を出し、それなりの勢いで結界へとぶつかって行った。

その瞬間…


「ぎゃー!!!!」翠

「うわああ!!!」俺


見事なまでに吹っ飛ばされる。

まるで大男にぶん投げられたような感じだった。


二人一緒にまた地面に転がり、視界には青い空が広がっていた。

まだ一回目だと言うのにできる気がしない。


本当はこれは成功するのか?


「よし、もう一回!」

「お、おう!」


翠がさっと起き上がるから俺もつられて立ち上がった。


そうだ、諦めるな。

りんを助けるんだろ?役に立ちたいんだろ?

今はこれしかできない。


「「せーの!!」」


俺にできる精一杯をやれ!


何度も何度もぶっ飛ばされ、地面を転がり、着物も顔も泥まみれになった。

数えること八三回目、ついにその時が訪れる。


「「うぉおおおおおお!!!!!」」


雄叫びを上げながら結界に再び突っ込んだ俺たちは跳ね返される事なく前に進めた。


それに驚き足が止まり…


「おぎゃっ!!」

「うわぁ!!!」


俺と翠は顔から地面に突っ込んだ。

顔を上げ隣を見ると翠が鼻血を出している。


「翠、鼻血が出てるぞ!大丈夫か!」

「安心しろ!お前も出てる!!」


そうか、俺たちは二人して鼻血を出しているんだな。


間抜けなのは置いておいて…


「やったな、翠。」

「あぁ、俺らやれば出来る男だからな。」


ちゃんと突破した。

諦めなかった、初めてこんなにも自分が誇らしい。


「さてと。」


翠は立ち上がり俺に手を差し出す。

俺はその手を取り体の痛みを我慢しながら立ち上がった。

まだまだくたばる訳にはいかない。

ここからさらに踏ん張らないといけない。

この先には何があるかわからないからな。


「ここからは慎重に行こうな。

奥の方に禍々しい何かがある。」


翠は既に何かを感じ取っていた。


一度冷静になり辺りを見回した。

辺り一面、植物はない。

あっても枯れている。

木や花や草、何もかもが枯れていて進むにつれ空気が重い。


奥に行けば行くほど不気味になる。


「うぅ……最悪だな、本当に。」


翠はかなり顔色が悪くなっていた。


「翠、大丈夫か?

かなり顔色が悪いが…。」


冷や汗までかいて本当にどうしたんだ。


「何か…俺ここ嫌なんだよ。

頭痛ぇ……吐きそう……」


きっと、妖怪だから感じる何かがあるんだろう。


「無理するな、奥には俺が行ってみるからここで」


「駄目に決まってるだろー!!!!!

俺を見てみろよ!こんっなに具合悪くなってんだぞ!?

これより奥には想像もつかないくらいとんでもねぇもんがあるんだよ!

そんな所に一人で行かせられるか!」


翠の必死さに思わず引いてしまう。


「そ……そうか……。

でも、本当に気分が悪いならここでやめておいた方がいいんじゃないか?

ぶっ倒れてからじゃ遅いだろう。

それに、もしも倒れたら俺はお前を担いで行かないといけない。

りんみたいに軽いならいいが……。」


翠はどう見ても俺と同じくらいの体型だ。

この先で倒れて、さらには何かがあり急いで立ち去らないといけない、なんて状況になったらそれはもう詰みだろう。


自分とほぼ同じような男を担いで進める距離なんてたかが知れてるしな。


「んー、本当にどうするかなぁ…。」


俺だって出来れば一人では行きたくない。

翠がいてくれれば心強いが具合の悪い友を引っ張っていく訳にもいかないだろう。


「大丈夫だ。俺は今のところ体に異常はない。

マズいと思ったら絶対にすぐに引き返すからここで待っててくれないか?」


「んーーー。」


これはなかなか骨が折れそうな説得だな。


「翠が逆の立場ならきっとそうするだろう?」


俺のこの質問が決定打になったらしい。


「はぁぁあ…もう、分かったよ。

足手纏いになるのだけはごめんだから俺はここで待つ。

ただし!絶対に無茶はするなよ!

少しでもおかしいと思ったらすぐ帰ってこい!

別に何か見つけなくていいから!」


これは嘘でも頷いておかないと行かせてもらえそうにないな。


「あぁ、ちゃんと分かってる。」


自分の身を守りつつ、あの女が不利になる証拠を集める。

無茶をする気はないが、手ぶらで帰って来る気もない。


俺も翠と同様、足手纏いになる訳にはいかないんだ。


「本当だな?何かあれば大声を出すんだぞ、本当に気を付けろよ!いいな!約束だぞ!」


死にに行くつもりはない。

俺はちゃんと生きて帰ってくる。

もちろん、必ず証拠を持って。


「あぁ、待っててくれ。」


俺は翠に背を向け何があるか分からない不気味な奥へと足を進めた。

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