頑張ると言った白の目は力強く頼もしかった。


俺の友達めっちゃいい男だ、なんて思っていたけど早々に挫けそうなことが一つ。


「なぁ、これどうやって入んの?」

「だから言っただろ、ここは所有者ですら立ち入らないって。」


目の前には俺や白よりも背の高い草がボーボー。

おまけに近くの木には雀蜂の巨大な巣。

何ならブンブン俺らの頭の上を飛び回っていた。


「雷神兄弟くらい立端たっぱがあったらどうにかなりそうだが……。

てかさ、アイツら顔も良くて立端あるの狡くねぇか?なんか腹立ってきたわ。」


「仕方ないだろ、神なんだから。

そもそも俺たちの立端が普通であの兄弟が大きいだけだ。気にすることはない。」


そうだよな、アイツらがおかしいんだよな。


「でもさ、これどうする?」


蜂もいるし、ブンブン言ってるし。


「どうするもこうするも本当に入りたいならこの草を抜いていくしかないだろう…。」


俺と白は一番の問題になりそうな蜂の巣を見上げた。


「あれは…まぁ、大丈夫だろう。

俺たちは今見えていないんだろ?

つつこうが落とそうが見えないなら襲ってこない。多分な。」


いやさ、白、言いたいことは分かるよ?


でもさ……


「俺らの頭の周りブンブンしてるって事はそれなりに感知できるんじゃないか?」


巣に何かしたら襲ってくるぞ…。

かなり大きな巣だから蜂の数も相当いるはずだ。


「そうかもしれないが…まぁ、そこは気合いとかで…。

むしろ、俺らが出来る事と言えば気合いを入れることくらいじゃないのか?」


なぁ、白。

お前って意外と脳筋なんだな。


でも白の言うことも一理あるよな。

今根性見せないでいつ見せるんだって話だし。


「よし、とりあえずサクッと草抜いてこの先を…」


草むらに手を伸ばした俺は違和感に気付いた。


「…ん?」


何だ?この感じ。

押し戻されているような気がする。


「どうした?何かあったのか?」


白にも確認してもらうか。


「白、ここ。

ここちょっと触ってみ?」


俺の勘違いならそれでいい。

でも、おそらくそうじゃない。

白は俺に言われた通り、俺と同じところにゆっくり手を伸ばした。


「ん?何だ、これ。」


よかった、俺の勘違いじゃなかった。


「変な感じだ……。

空間に押し戻されるような?

なんて言ったらいいんだ。」


まさにそれだ。

空間に押し戻されている。

つまり…


「結界が張られてる時の現象だ。」


でもおかしいよな?

こんな誰も踏み入らないような所に結界なんて。

もうここで決まりだな。


この中には知られてはいけない何かがある。


「翠、その結界は破れるか?」


「ん〜、まぁ、めちゃくちゃ頑張れば?いけると思うぞ。

神様お手製の結界だからな、さっき白が言ったようにかなり気合いを入れないといけない。」


どうしても無理ならあの兄弟のどちらかを呼ぶ。

でもアイツらもアイツらでやる事があるから基本は俺がどうにかしないとな。


「俺ができることはないか?」


正直に言ってしまえば、ない。


でも何かしたいって気持ちは本当に伝わってくるから…


「応援してくれ!」


「あ…あぁ!任せろ!」


〜30分後〜


「頑張れー!!」


「………。」


白、お前ってさ、可愛い奴ってよく言われない?


「頑張れー!!」


俺が応援してくれなんて言ったばかりにさっきから凄まじくでかい声で応援してくれてる。


「頑張れー!!」


もうこんなに騒いでたら姿を消してる意味ねぇよ?


でも一生懸命なんだよな、全然鬱陶しいと思わない。


「白、ありがとう。

お前の気持ちは本当によく分かった。」


だからもう叫ぶのはやめよう。

さすがに誰か来る。


白が叫ぶのをやめてさらに時間が経った。


「はぁ…はぁ…はぁ……。」


褒めてやるのは癪に障るが、さすがあの女が張った結界だ。

傷一つ付かない。


「大丈夫か?」


汗だくになりばてている俺を見て白が心配そうな顔をする。


「あぁ…。大丈夫だ。

座敷童はこんな事でへこたれねぇよ。」


とは言った物のこのままだと正直厳しい。

神力と妖力はそもそも全くの別物だからだ。


「座敷童は凄いんだな…。

俺も応援ばかりしていても仕方ない、必要なら突進とかするからな。

遠慮せずに言ってくれ。」


こんな結界に突進したら跳ね返されて大変な事になるかもしれない。

白に怪我をさせるわけにはいかないからな。


「突進はやめようぜ?

結界って力だけじゃどうにもならない。

壊す時は結界よりも強い神力や妖力で傷を付けて壊すんだ。

けど大問題があってさ?」


「あぁ。」


こうして自分の口で細かく説明すればする程虚しくなった。

なぜなら…


「俺、びっくりするくらい妖力量普通なんだよな。ちょっと心折れそうなんだけど。」


この結界は、正直お手上げだ。


「そ…そうか。

大丈夫だ、翠。

俺は神力も妖力も何もない、木偶の坊もいいとこだ。

妖力があるだけいいじゃないか。」


うん、なんかごめん。


「自分に優しくなろうぜ?な?

あーーーー、本当にどうしよう、どうやって壊せばいいんだ………。」


そもそも神が張った結界を壊すなんて無謀にも程がある。

何か超自然的な超絶媒体でもあれば…。


「やっぱり突進か?

突進しかないんじゃないか?

俺確かに木偶の坊の贄だがそれくらいは出来るぞ。」


贄…か。


ん…?ちょっと待った。

贄ってさ、その大地に納められる生贄だよな?

自然に還るよな…?


て事はさ、白って滅茶苦茶に超自然的な存在じゃね?

超自然的な存在と割と澄んでいる妖力の持ち主が結界に突っ込んだら、結界の均衡崩れるんじゃね?


どうせ俺一人じゃ何年経っても無理だ。

やれる事はやってみるしかない。

だったらもう、やり方は決まってるよな。


「白……。

二人三脚って知ってるか?」


「え……。

に、二人三脚?か?

あの、足を縛るやつ?だよな?

それは今やらないといけないのか?

本当に今なのか?」


よし、話が早くて助かる。


「あぁ、今やる、むしろ今しかねぇよ。

やるぞ、二人三脚。」


「……そうか、やるのか。

分かった。」

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