りん

私は翠と共に食材を取りに行くために初めてお邸の外へ出た。

近くの森へ入って少し歩くと…


「あ、柿だ。」


翠が柿の木を見つけた。

かなり高い木にはたくさんの柿が実っている。


「登って取るかー。

何個か取ってくるからここで待っててな。」


翠は私に気を遣っているんだろうか。


「翠、私も登れるから大丈夫だよ。

一緒に取りに行こう?」


「……木登り出来るのか?」


そんなに驚いた顔しないでよ。


「うん、もちろん。

私、山で育ったの。」


木登りくらい朝飯前よ。

 

「りん…。」

「きゃっ!」


突然後ろから声をかけられ驚き振り返った。

そこには意外な人物が立っている。


「白!」


どうしてここにいるの!?


「白!あれから大丈夫だった?

もうどこも悪くないの!?」


私は白に詰め寄るように聞いてしまった。


「あぁ、大丈夫だ。

…それより、何で一人で喋ってるんだ?」


白はかなり怪訝そうに聞いてくる。


「え?一人じゃないよ。ここに…。」


あぁ、そうだ。

忘れてた、翠は他の人には見えないんだった。


「大丈夫か?」


本気で心配されてる……。


「大丈夫だよ!本当にもう一人いるの!!」


「…………あ、あぁ、そうだな。

確かにいるな、あぁ。いるいる。」


白は目を泳がせながら何度も頷く。

私がついに頭がおかしくなったと思って話を合わせてくれているんだ。


「あははっ!コイツ面白いな!!」


翠はそんな白を見て大笑いした。



「もう!翠!笑ってないでどうにかしてよ!

私おかしくなったと思われてるでしょ!」


「………翠、と言うのか…。その…あの…そちらにいるのは。」


「あっはははは!!ひーっ!!腹痛いっ!!」



もう!白が本気で動揺してる!


「翠!意地悪しないで!」


私がそう言うと翠は笑いすぎて出た涙を拭った。


「あー、笑った笑った。

心底笑ったことだし、お披露目と行くか。」


翠がそう言って手をぱちんと叩く。


すると…


「うわ!」


いきなり現れた翠に驚き、白が声を上げる。


「あははっ!!いい反応だなぁ!!」


翠はまた愉快そうに笑った。


「え?どこから…え?」


白は本当に困惑していて見ているこっちも面白くなってくる。

笑ったら可哀想だからどうにか堪えているけど限界は近い。


「俺は座敷童の翠。

今は特別に姿を見せてやってるんだ、感謝してくれよな。」


「あ…あぁ、よろしく。俺は贄の白だ。」


二人はいい友人になれる気がする。

なんだかそんな気がした。


「ねぇ、白。

今日は本当にどうしたの?

まさか、桜華様に何かされた?」


私はこれだけが心配。

白が酷い目に遭っていなければそれでいい。


「いや、特に何もされてたないがかなり機嫌が悪いから帰ったら何かしらされるだろうな。」


つらい返答だった。


「そんな…。」


何と声をかけたらいいかわからない。

下手な慰めは時に状況をもっとつらくしてしまう事があるからだ。


「帰らなければいいんじゃ

俺と隠れてりゃ問題ないだろ?」


問題しかない発言が出た。


「帰って来なかったらそれこそ何をされるか分からないよ?

桜華様がもっと怒るかも…。」


今以上に白に強く当たったら白が可哀想だわ。


「あの女の恐ろしさを知らないからそんな事が言える。」


白も帰らないなんて選択はできないみたい。


「あの性悪だろ?

俺あの女嫌いなんだよな。」


私と白は、翠のあまりの発言に辺りを見回した。 

 

「誰がどこで聞いているか分からないのにとんでもないことを言うな。」


「そうだよ、翠。

私たち、翠とは違って簡単に殺されるんだからね?」


贄の命は本当に軽い。

神を侮辱していたと誰かに言われたら証拠がなくてもあっさり命を奪われる。


「でもさ、俺本当に嫌いなんだって。

あの女、すぐ人のこと虐めるだろ?

前に見たんだよ。

あの女がここの邸に遊びに来てる時に、雷神兄弟に媚び売ってた女中を生き埋めにしたとこ。」


「え!!?」

「生き埋め……。」


私と白はもちろん衝撃を受けた。


「そうそう。

あの女、女中が持っていた湯呑みをわざと割って破片で自分の顔を切ってさ、わざとらしく泣いて騒いでその女中に切り付けられたって兄貴の方に泣きついたんだよ。」


そんな事があったなんて知らなかった。


「それでその人は生き埋めになったの?」


桜華様の自作自演で?


「あぁ、性悪女が兄貴に頼んで、兄貴が本当に生き埋めにした。

でも、すぐに弟の方が二人の目を盗んで助けて逃がしてたから一応は生きてるんじゃないか?」


あまりにも不憫に思ったんだろう、雷牙様がその人を助けていたんだ。

雷牙様は昔から変わらないのね。


「命拾いしたな、その女中は。

俺の主人は昔から性根が腐ってる。」


白までとんでもない悪口を言い出した。


「そうそう。だから俺あの女嫌いなんだよ。」


もちろん私は冷や汗をかきながら周りを確認していた。  


「腐ってると言えば、俺とりんを刺したあの刺客は間違いなくあの女が放った者だ。

昨日の夜、部屋で一人になった時に発狂してた。

使えない愚図が、って。

昨日は雷牙様に送り届けてもらったんだが俺が生きていると知った時のあの女の顔は傑作だったぞ。

憎悪を隠し通そうと引き攣った笑みを見せていた。」


何となくそんな気はしていた。

私と白が逃げていた時、先に私に苦無を投げてきたから。

私を一番殺したいと思っているのは桜華様だ。


「刺されたのか!?しかも昨日!?

お前ら大丈夫!!?」


翠の反応はまともなものだ。


「あぁ。あの兄弟がいなかったら俺たちは昨日の月が上がる前に死んでいたと思う。」


白の言う通り。

私も白もかなりの出血だった。


「本当にとんでもない女だな!

嫉妬深いし意地は悪いし最悪だ!

あんなのが邸に嫁に来る予定なんだろ?

俺出て行こうかな…。

いや、待て待て。

そしたらお前ら夫婦になるってこと?」


私と白は顔を見合わせた。


「一応そうなるな。」

「え?白聞いてないの?」


私の言葉に白が少し驚いた。


「まさかあの二人、祝言を挙げないのか?」


そう、そのまさかだよ。


「うん、桜華様を妻にはしないってはっきり言ってたよ?

私を手離さないらしく…て/////」


あれ?なんか自分で言って恥ずかしくなってきちゃった。


「あぁ、なるほどな。

それで昨日あれ程荒れていた上に命を狙われたのか。」


妙に納得している白。

翠は私を見てニヤニヤしていた。


「翠!ニヤニヤしないで!/////」


「いや〜、だってさ〜、りんがニヤニヤしてるからな〜。」


「そう揶揄うなよ、可哀想だろ?本当のことだから」


白まで!!!!


「も、もう!いいの!この話はこれで終わり!!

とにかく早く柿取ろうよ!!!

私お腹すいた!!!」


話を逸らそうとしたけどそれは大失敗に終わる。


「未来の奥方様はここで待ってな、しがない座敷童が取ってきてやるから。」


いつまでもニヤニヤしている翠。


「贄が奥方様になれる訳ないでしょ!

それに柿くらい自分で取るよ!!!」


ムキになる私を見て白が珍しく笑っていた。


穏やかで温かい時間は一瞬にして終わりを告げる。


「「!!」」


白と翠は何かに反応して、私を挟む形で背中合わせになった。


「何!?」


この雰囲気、ただ事ではない。


「数が多いな…。」


数が多い?


「何?何がいるの??」


私は二人の間で泣きそうになりながら聞いた。

すると木の影から自分たちと同じくらいの大きさの黒い蜘蛛が現れた。


「土蜘蛛か…一匹ならいいけど大軍は厄介だな。」


翠がそう言った途端、辺りからカサカサと大量の土蜘蛛が出てきた。


穏やかで温かい時間は一瞬にして終わりを告げる。


「「!!」」


白と翠は何かに反応して、私を挟む形で背中合わせになった。


「何!?」


この雰囲気、ただ事ではない。


「数が多いな…。」


数が多い?


「何?何がいるの??」


私は二人の間で泣きそうになりながら聞いた。

すると木の影から自分たちと同じくらいの大きさの黒い蜘蛛が現れた。


「土蜘蛛か…一匹ならいいけど大軍は厄介だな。」


翠がそう言った途端、辺りからカサカサと大量の土蜘蛛が出てきた。


「今だ!!走れ!!!」

「っ!」

「うわぁあ!!!」


私と白は、翠の手を引っ張る力と足の速さに驚く。

自分の足では到底出ないであろう速さだった。


「お、おい!!翠!

前にもいるぞ!」


白の言う通り、私たちを待ち構えていた蜘蛛が現れる。


「ったく!!!どんだけいるんだよ!!

て言うか、姿を消しているはずなのになんで明確に俺たちの位置が分かるんだ!」


翠は足を止めても私と白の手を離さなかった。


「がっつり目が合ってる。

コイツら普通の土蜘蛛じゃないな…。」


戦況はどうやら厳しいらしい。

昨日は刺されて今日は蜘蛛に襲われている。


「ま…まさか、これもあの人の仕業?」


こうもツイていないと嫌な事ばかりを考えてしまう。


「もちろんそうだろう。

あの女、本当に執念深いからな。」


白は呆れたように言い放った。

カサカサカタカタ嫌な音がそこら中から聞こえる。


どうやって自分の身を守ろうか考えていると足元に違和感を感じた。


「何…?」


私が足元の地面を凝視していると何かがキラッと光を放った。


これはまさか…


「糸…?」


私の言葉に翠が反応した。


「え?糸?…っ!!

りん!白!体中に糸が付いてるはずだ!

すぐに払え!!!」


その忠告も一足遅い。


「ひっ!!」

「うっ!!」


気付いた時には私と白は透明な細い糸で体を締め上げられてしまった。


そして私達は物凄い勢いで薙ぎ倒されて互いに反対側へ引き摺られていく。


「やだやだ!!離して!!!!」

「クソ!!この!!やめろ!!!」

「りん!白!!」


翠は左右に引き摺られる私たちの手を離さなかった。

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