りん
目が覚めて、自分がかなり長い時間眠りこけていた事に気がついた。
「ん……。」
腰が痛い。
体中、遊雷の咲かせた花で満ちている。
「///////」
昨日は何度も大好きだと囁かれた。
その度に私と私の体は喜んでいたっけ。
考えるのはやめよう、恥ずかしくなってきた。
それより、遊雷はどこへ行ってしまったんだろう。
この広い部屋の中で一人は寂しい。
ここで寝ていても仕方がない、何かしよう。
ちゃんと自分の着物を着て炊事場へ行った。
みんな忙しそうでとても声をかけづらい。
仕方なく部屋に戻ろうと廊下を歩いていると誰かと正面からぶつかってしまった。
「っ!」
背の高いその人を見上げると、その人は驚いてる。
短い茶髪で着物を着崩しているその青年は私と同い年くらいに見えた。
「ごめんなさい、前を見ていなかったので…。」
それにしても不思議だ。
私は長い廊下を前を向いて歩いていた。
それなのにいきなり誰かとぶつかるなんて事あるんだろうか。
「贄ちゃん、俺のこと見えんの?」
贄ちゃん??
「はい…見えます。」
彼は驚き言葉を失っている。
「わー、すげぇ。
やっぱりアイツの力がすげぇからかな。
ちょっとごめんよー。」
彼は私の額にトンッと指を当てた。
「あぁ、なるほど。
約束が二つと……あぁ、昨晩はお楽しみか。」
「///////////」
なんで分かるのよ、この人////////
「贄ちゃん気を付けろよ?
神と交わりすぎると体に影響でたりするから。
何なら今も出てるし。」
え??
「そうなんですか?」
「うん、だってそもそも俺の事見えてる時点で普通の贄じゃねぇもん。」
普通の贄じゃない…
「あの…あなたも神様ですか?」
彼は大笑いした。
「あはは!俺は神様じゃねぇよ、ないない!
俺は妖怪、座敷童って聞いた事ない?」
「座敷童!?」
座敷童って子供じゃないの!?
「そうそう、もう何百年かここにいるんだ。」
「何百年……。」
全然子供じゃないし何なら年上…。
「あ、俺は
贄ちゃん名前は?」
「りんです。」
私が答えると翠さんは嬉しそうに笑った。
「そっか、りん。
これからよろしく。」
「こちらこそよろしくお願いします、翠さん。」
「翠さんなんてやめてくれよ、呼び捨てでいい。
それにそんな話し方されたら息が詰まって死んじゃうだろ?」
気さくな人だとすぐに分かった。
「分かったよ、翠。」
私がそう答えると翠は嬉しそうに笑った。
「おう、それでよし。
じゃあ俺やる事あるからまた今度話そうぜ?」
やる事!?
「お手伝いしようか!?」
暇だった私は食い気味に聞いた。
「え?手伝い?」
「うん!私暇なの!
私言われた事くらいはできるよ!」
読み書きは出来ないけどね!
「あ、そう?
じゃあ俺と行く?」
何か仕事をくれるなら…
「行く!!」
「りんを見えなくするからとりあえず手繋いでくれないか?
他の奴らには俺が見えないからりんがこのまま俺と話しながら行くと相当な変人だと思われるからな。」
本当にここの人たちは翠のことが見えないのね。
「うん、ありがとう。」
翠と手を繋ぐだけで私の姿が他人から見えなくなるなんてすごい。
手を繋いで歩きながら聞いてみた。
「仕事ってどんな事するの?」
座敷童に仕事があるとは知らなかったよ。
「とりあえず邸の浄化?
変なとこあったら俺の力で追い払ったりすんだよ。
あの雷兄弟、案外邸の邪気をほったらかす傾向があるからな。
と言うより、自分たちがいろいろ強すぎて微かな邪気には気付けてないかもしれない。」
「二人とも、強いのは知ってるけど実際はどれくらい強いの?」
実はあまり知らない、あの兄弟の立ち位置。
本当はどんな人たちなんだろう。
「兄貴の方は文句なしの一番だな。
弟はまぁ、その次か戦神と同等ぐらい?」
遊雷、やっぱり一番強いんだ……。
「すごいね…二人とも。」
「まぁこの兄弟は普通にバケモンだよなぁ。
弟の方がたまに外から変なの持って帰ってくるから俺も忙しいんだよ。」
雷牙様が変なのを持って帰ってくる?
「そ…それって幽霊とか?」
もしそうなら怖いわ…。
「幽霊?いや、なんて言うかなー。
怨念?的なやつ?
まぁ、要は邪気だよ。
俺もよく分かんないけどとりあえずうちにいたらマズい感じのやつ。
仕事柄持って帰るのは仕方ねぇけど、ほったらかすのは勘弁してほしいんだよな。
あの兄弟に影響はなくても、この家に、つまり俺に影響あるんだよな。」
それは大変ね。
「もしかして今はその邪気を探しているの?」
「そうそう、昨日からなーんかモヤモヤして変なんだよな。
あるような、ないような。
本当に変な感じ。」
この邸の邪気を祓って守るのが翠の仕事なんだね。
「翠、すごい。
この邸の縁の下の力持ちだね!」
「んな、大袈裟なぁ〜////」
あ…照れてる。
私よりもはるかに年上なはずなのに可愛い。
「本当にすごいよ!
でも、邪気なんて怖いね。
私も邪気とか感じ取れるようになったらもっと翠のお手伝いができるのにな…。」
ここでただ遊雷に可愛がられているだけじゃ駄目な気がする。
やれる事はやっていかないと。
働かざる者何とやらと言うようにね。
「俺の仕事なんて邪気見つけて追い払ってごろごろするだけなんだからそんなに気に病むなよ。
そもそも、今はまともに仕事すらできてねぇけどな!
邪気の場所全く分からん。」
翠はそう言って豪快に笑った。
「いつもは簡単にわかるの?」
「あぁ、いつもはな。
なんか嫌な感じするし、黒いモヤみたいなのが見えるからな。
今回のは薄っすらだしモヤもないんだよ。」
そういうものなんだ。
見たことないから本当に分からないわ。
「あ、そうそう。
言い忘れてた。黒い変なの見えたら教えてくれ。
俺と手を繋いでいる間は視えるはずだからな!」
え!!?そうなの!!?
「うん!頑張って探すね!任せて!!」
結局その後も散々探したけど、二人の目で視ても邪気を見つけることはできなかった。
結局私たちは疲れ果て、最後に入った物置で休憩する事に。
「あー、疲れた。
邸広すぎるだろ、何人で暮らすつもりなんだ?」
「本当に広いね…私の前の家はこの物置の半分もない部屋だったのに。」
今思えばよくあんな狭いところで生活してたわ。
「絶対ここだと思ったんだけどなー。
本当、気配が出たり消えたりで困っちまう。」
「そのうちハッキリするよ。
神様の邸の座敷童なんだから大丈夫!
絶対見つけられるよ!」
ギュルギュルギュ〜!!
項垂れる翠を励ますと、翠のお腹からすごい音がした。
「あ゛ー!腹減ったー。」
確かにお腹空いた。
遊雷達がいないから食事は出てこないだろうし、かと言って勝手に食材を使うのも気が引ける。
「何か外に採りに行けたらいいんだけど…。」
勝手にこのお邸から出てもいいのかな?
「あ、それ名案。
行こうぜ。
と、その前に……これでいいか。」
翠は物置に置いてあった着物の一番地味な腰紐をとった。
それを自身の着物の腰紐の上に巻きつける。
「何してるの?」
わざわざ帯を二重にするなんてそんな人は初めて見た。
「あぁ、ここの家のもの何か持って出ないと俺消えちまうんだよ。」
「え!!!?」
消える!?
「消えるって、まさか死ぬってこと??」
「あぁ、まぁそんなとこ?」
そんな、何でもないように答えるなんて…。
「だったらここで待ってて?
私一人で何か探してくるから!
もしもその紐が解けたら大変だよ!」
「大丈夫だって、現にこうして何百年も生きてんだから。
そんなヘマしないからさっさと行くぞー。」
翠は私の心配を他所に普通に物置を出て行ってしまった。
「ま、待ってよー!」
本当に大丈夫なの?
私絶対、食材探しに集中できないよー!!
なんて思いながら物置を出ると、翠は私をちゃんと待ってくれていた。
「大丈夫だって、後で一緒に美味いもん作ろうぜ。」
差し出された手を取ると翠が屈託のない笑みを浮かべて私を引っ張っていく。
その堂々とした背中を見ると心配なんか不要に見える。
翠が大丈夫と言うんだから大丈夫、いつの間にか私はそんな風に考えていた。
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