この男、神であり化け物だ。

りんを見ている時の目が執着に満ちている。

りんと何か話しているが正直意識を保っているのがやっとで会話なんか聞き取れない。


朦朧としていると、両手を地に付いている俺の側に雷神が来た。


「わー、痛そう。」


あぁ、痛いに決まってるだろ。

喚いていないのが奇跡なくらいだ。


「どうしようかなぁ。

うーん。」


普通の人間ならここで助けが来たと大喜びするだろう。

俺だって相手がこの神の弟なら大喜びした。



「ねぇ、ゆっくりやる?それとも一気にやる?どっちがいい?」


「っ…。」


弟の方が幾分かは優しいだろうからな。


「あぁ、答えられないか。

ごめんね?意地悪な事聞いて。」


こっちはごめんだ、コイツには他者への情けが微塵も感じない。


「とりあえず治してあげる、死なれたら困るんだよね。"今は"。」


りんの前では殺さない、俺はそう取った。

雷神は雑に俺を横にして、腹に刺さった苦無を握る。


「っ……!!」


「さて、気張りなよ?

かなり痛いと思うから。」


本当に頭がおかしいんだな。

コイツ、笑ってやがる。

俺が雷神を睨みつけた瞬間…


グチャッ!!「ガハッ!!!!」


雷神は俺の腹の苦無を一気に引き抜いた。


「あ゛ぁっ…!!」


くそっ…!!!この野郎…!!

着物が生暖かい血で染まっていく。

痛くて痛くて正気が保てそうにない。


「兄様!!!白!りん!!」


「あ、雷牙。

いいところで来たね、あとは任せたよー。」


兄の方はニコニコ笑ってサッと立ち上がり、りんの方へ向かった。


「正気か!!!

何やってるんだ!!」


弟は何の迷いもなく俺の近くへ膝をついて瞬時に俺の傷を神力で治してくれた。


「白、大丈夫か?」


あの兄の後に見ればこの男が仏のようだ。


「はい……大丈夫です。

ありがとうございます、雷牙様。」


雷牙様の神力は暖かい。

痛みや苦しみが全て引いていく。


「一体何があった?

まさか兄様が刺したのか?」


ここで一番に兄を疑うなんて、今まで散々苦労されて来たんだろうな。


「いえ、これは別口です。

…正直、いつまで生かしてもらえるかは分かりませんが。」


「俺がそんな事させない、心配するな。」

 

「うっ…痛いっ……」


りんの苦しむ声に俺と雷牙様が視線を移す。

雷牙様は分かりやすい、りんを見た瞬間明らかに顔色が変わった。


「兄様…刺したのか?

女相手に何をしているんだ…。」


「いや、違います。

本当に刺してません、あれも別口です。」


一体、どんな生活をしていれば弟にこれ程疑われるようになるんだ?


「あぁ…そうか。

何があった?大まかに話してくれないか?」


本当に有力な情報は何もないが聞かれたんだから答えるしかないな。

俺はさっきの出来事を雷牙様にそのまま伝える事にした。

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