遊雷

りんがどこかへ行くと分かっていたら眠れるわけがなかった。

りんが少し動いただけで僕は目を覚ましてしまう。

このままりんがいなくなってしまいそうで怖かった。


僕は既にりんに嫌われてしまっただろうから。

胸の奥が痛い。

僕にも怖いなんて感情があったことに驚いた。

怖いものなんて何もなかったのに。

何もかもどうでもよかったのに。


りんは僕をこんなに変えた。

僕は本当にどうしてしまったんだろう。

りんだけはどうしても失いたくない。


「遊雷様、足を崩してもいいですか?」


りんはずっと正座をしていたから足が痛くなったのかな。


「いいよ、楽に座って。」


できれば隣に転がっていてほしいけどそれはもう無理なんだよね。


あぁ…痛い。

今痛むところには臓器なんて入っていないはずなのに。


りんが足を崩してさっきよりも頭が低くなる。

りんはどこから見ても綺麗だった。

触れたい。

嫌がられるかな…?


「りん…。」


触れたい…。

柔らかい頬に触れて、りんが可愛く笑う所をもう一度見たい。

僕が我慢できずにりんに触れたらりんはすごく悲しそうに笑った。


違うよ…こんな顔させたい訳じゃない。


「りん…。」


笑ってよ、いつもみたいに嬉しそうに笑って。


「ここにいますよ。」


問い詰めなければよかった。

桜華の言った事なんて何も気にしないで、鈍いふりして何もかも聞き流せばよかった。


馬鹿だなぁ、僕。

どうでもいい、いつも言っているその一言が一番必要な時に出なかった。


「眠ってください、遊雷様。」


もう無理なのかな?


二度と、遊雷とは呼んでくれないのかな。


そんなの…絶対に嫌だ。


りんとずっと一緒にいたい、でもりんが眠れないのは可哀想。


僕も腹を括って眠ればいいのに、りんが離れるのが怖くて目が覚めてしまう。

僕がこんなに鬱陶しい事をしているのにりんは怒らなかった。


「遊雷様、大丈夫です。

ちゃんといますよ。」


こんな僕にも優しかった。

贄だからぼくに優しいんじゃない。

りんが優しいんだ。


このままこの優しさに付け込みたい、そんな最低な考えが及んでしまった。

けど、それを実行する勇気が今の僕にはない。


僕はどうやったらりんを失わずに済むだろう。


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