遊雷

りんが僕と目を合わせてくれなくなった。

僕が酷いことを言って問い詰めたから。

そんなりんに僕もどう接していいか分からない。

ただ、りんにこれ以上何か聞くのが怖い。


りんは僕に嘘をついた。

僕だけいればいいって嘘を。

あの時は本当に嬉しかったのに。

僕だけでいいって、それが嘘だと知る前は本当に嬉しくてたまらなかった。


これ以上ないくらい嬉しかったのに…。


「りん、もう夜だよ。

そんなことしてないで部屋に戻りなよ。」


「仕事がありますので、遊雷様お一人でお戻りください。」


今ではただの神様と贄になってしまった。


たった一日だけの出来事なのに耐えられそうにない。

怒りと嫉妬にに支配されてりんに酷いことを言った。


たかが贄、なんてどうしてそんな言葉が出て来たのか自分でも分からない。

りんが僕の事を嫌いになるのも当然だ。


りんになんと言えばいいのか分からない、これは千年以上他人と関わることを遠ざけた僕への罰だ。


謝り方も仲直りの仕方も何も分からなかった。


「ねぇ、りん。

部屋に金魚を置くのはどう?

昨日、見惚れてたでしょ?」


「遊雷様がそうしたいのであればそうしてください。」


りんは僕に背を向けたまま皿を洗っている、声にも抑揚はなかった。


「僕は別に金魚はどうでもいい。

りんが好きなら部屋に置きたい…かなって…。」


「金魚なんて好きじゃありません。

もう夜も遅いです、お部屋に戻ってお休みください。」


「じゃあ部屋に戻ろう?

皿は誰かに頼んで僕と一緒に」


「いえ、もう二度と遊雷様のお部屋で眠ることはありません。

私は贄で遊雷様は神様です。

なので、お部屋へは一人でお戻りください。」


頭を強く殴られたような感覚になる。


「二度と…?

じゃあ…ずっとこんなふざけた事続けるの?

僕にひれ伏した話し方をして、視線も合わせず何もなかったかのように過ごすの?」


カチャカチャと皿を洗う音だけが響いた。


「はい、あなたは神様ですから。」


ついには名前まで呼んでくれない。


「いいよ…そんなの、もうやめよう?

ほら、一緒に部屋に戻ろうよ。」


こっちを見てほしい。

もう一度、りんの笑った顔が見たい。

りんに触れたい…。

気が付けばりんを背後から抱きしめていた。


「りん……僕と一緒に来て。」


りんのいない部屋になんて戻りたくない。


「何でも好きなものをあげる、りんの好きなもの全部あげるから一緒に行こう?」


この言葉に嘘はなかった。

りんが以前のように僕に接してくれるなら、僕は何だって差し出す気でいた。

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