雷牙

今日も今日とて胃が痛い。


「兄様。」


一体、何があったんだ。

ここの所…


「ゔっ!ぎゃっ!!!あがっ!!」

「兄様、その辺りにしておけ。死ぬぞ。」


兄様の狂暴な面をよく見る。


「どうせ殺すんだから関係なくない?」

「まだ聞きたいことがある、殺さないでくれ。」


俺がそう言うと兄様は男からパッと手を離した。


「はーい。じゃあ次は?」


兄様は次の仕事のことを言っている。

気が立っている兄様に俺は正直に答えた。


「今日はこれで終わりだ。」


「そっかぁ…つまんないの。

僕帰るねー。」

「あぁ…。」


本当にあんな様子で大丈夫だろうか。

明日は桜華の邸へ招かれていると言うのに。


「はぁ…。」


まさかずっとこのままと言うわけじゃないよな?


つい昨日からだ。

兄様はずっと気が立っていて、りんは感情を失ってしまったかのように笑わなくなった。


挙げ句、りんは今女中の仕事をしているしどこで眠っているかも分からない。


おそらく喧嘩をしたんだろうが、どうやったらあんなにも険悪になるんだ?


まさか兄様がりんに手を上げたんじゃないだろうな…。


何も分からない俺の妄想はどんどん悪い方へ進んでいく。


とにかく早く仲直りしてくれ。

気が立った兄様と感情がないりんを連れて桜華の邸に行くなんて地獄すぎる。


そもそもどうして俺とりんまで桜華の邸に招かれているんだ?

絶対におかしいだろ、いろいろと。

桜華も何を考えているんだ?


りんが兄様とどうなっているかは大方検討が付いているだろうに。

胃が痛い…。

どうやら俺までりんに避けられていてこの事を相談すらできない。


胃痛仲間を失うのは辛いことだな。

まぁいい。

俺も兄様に遊ばれたこの男から情報を引き出して帰ろう。


今日くらい、早く寝たい。


〜三時間後〜


(キリキリキリキリキリキリ)


胃が痛い、美味いはずの飯の味が分からない程に。


いつも俺と兄様とりんで三人で食べていた夕餉が、今や俺と兄様の二人きりになり、その食事をりんが運んでくる始末だ。


兄様もりんも互いに目を合わせることはなかった。


「失礼致します、お皿をお下げしてもよろしいでしょうか。」


りんは手慣れた様子で

何でこんなことになってるんだ?

兄様もどうして何も言わない?


りんは言葉通り空いた皿をさっさと片付けて行ってしまう。

残されたのは胃が痛くて堪らない俺とさっきよりも気の立っている兄様だ。


兄様の神力が漏れ出ているせいで俺の頬が爛れてきた。


「兄様、俺だからこの程度で済むが次に誰かこの部屋に入って来たら気が狂ってしまうかもしれないぞ。」


兄様の神力はただでさえ強いのに今は禍々しさまで滲み出ている。

これは精神にまで影響しそうなものだ。


「皿も下げられたし誰も来ないよ。」


そう呟いた兄様は少し寂しそうな顔をした。

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