りん

神隠し?

かなり想像と違うけど…。

とにかく私は雷牙様に隠されてしまったらしい。


「それより、体は大丈夫か?」

「え?」


体?どうして?この神隠し何か影響があるのかな?


「その……あの…兄様と…その…一夜を…/////」

「あぁ…/////」


そっちですか。

私と雷牙様は互いに顔を赤く染めた。


「一応大丈夫です。

体を温めたら少し楽になりました…////」


あれをしたと人に知られるのはかなり恥ずかしい。


「そ…そうか…それならよかった…/////

…兄様が本当にすまない。」


どうして謝るんだろう。


「謝らないでください。

受け入れたのは私ですから。

それに…私があまりにも無知だったのもいけないんです。」


最初はよく分からなかったけど、体を重ねた今なら分かる。

あれは、親しい男女の営みなんだって。


「まさか…その…アレの事をあまり知らなかったのか?」


私は頷いた。


「生前、そのような事を教えてくれる人はいませんでした。

親もいなかったので…。」


本当に恥ずかしい程私は無知だ。


「そ…そうか…それなら俺が責任を持って教えないとな。

兄様が間違ったことを吹き込んだら大変だ。」


雷牙様が恥ずかしそうにするからこっちまで恥ずかしくなる。

けどちゃんと聞かないと、雷牙様は物凄く真面目な神様なんだから。


「はい…よろしくお願いします!」


私が正座をすると何故か雷牙様も正座になった。


「その…りんは一通り事を終えたんだよな?

本来アレは恋仲の男女や夫婦間で行われる事だ。

まぁその…一夜だけの場合もあるがな。

それはかなり誠実ではない者がする。

……残念ながら兄様は誠実とは言えない。

まぁ、それは知ってるだろうから置いといて、肝心なのはこれだ。

その行為で子供ができる。」


「えぇっ!!!!?」


こここここ子供!!!?


「そ、そんな!!!

今私のお腹には遊雷との子供がいるんですか!!?」


「大丈夫だ、贄は贄同士でしか妊娠しない。」


え!?そうなの!?


「知りませんでした……。」


そもそもあれは子供を作る行為だったのね…。

それ以前に、男女で楽しむ為だけに営む場合もあるって事ね……。


私の場合は後者。

私は何も知らずに遊雷に遊ばれたらしい。


「まぁ…その、なんだ…。

こんな事は言いたくないが兄様は気まぐれな男だ。

もしも兄様がりんを放り出すような事があってもその時は俺の贄にするから大丈夫だ。

酷い奪い方をした分、俺が責任を持ってお前の面倒を見る。」


遊雷様はなんて心の広い方なんだろう、私とは大違いだわ。


「だが、その約束も果たせないかもしれないな。

兄様をかなり怒らせてしまったから殺されるかもしれない。」


え?


「殺されるわけありません。

遊雷と雷牙様は兄弟なんですから。」


「あぁ、兄弟だからこそ分かる。

兄様は自分の物だと認識しているものに手を出されたら容赦はしない。」


でもさすがに殺す訳ないよね?

前に白から聞いたけど、雷牙様に刀を向けた神の腑をその神に食べさせたって。


そこまでするんだから絶対に殺したりしないよ。


「遊雷は、雷牙様の事が大好きですよ。

だからきっとそんなことしません。

それに、遊雷が何かしようとしたら私もちゃんと助けますから。」


私がそう言うと雷牙様は困ったように笑った。


「それなら、生きる見込みがあるかもしれないな。」


その顔は本当に遊雷そっくりだった。


「大丈夫ですよ。

雷牙様のお兄ちゃんなんですから。

雷牙様が優しいように遊雷だって優しいです。」


遊雷は本当に優しい、残酷なくらいにね。


「それは……そんなことを言われたら少し照れるな。」


だからだと思う、私は一生遊雷を嫌いにはなれない。


そうか、これが答えだ。

私は遊雷を嫌いにはなれない。

もう、心の底から遊雷を愛してしまったから。

もう戻れないんだ…。

遊雷を失ったら私は生きていけない。

それは精神的な意味での事。


私はこれから先少しでも長く遊雷と一緒にいられるように頑張らないと。


「雷牙様…。

私の言葉は誰も聞いてくれないので、まともに聞いてくれる雷牙様にだけお話しします。」


「あぁ、どうした?」


雷牙様は優しく聞き返してくれた。


「私…頑張ります。

遊雷が桜華様と一緒になるその日までちゃんと遊雷を好きでいます。

そして、遊雷が桜華様と結ばれたら私は身を引きます。

私は遊雷の幸せだけ考えてこれから行動しますね。」


雷牙様は私の頭をポンポンと撫でた。


「そんな悲しいことを言うな。

うちにやって来たんだ、お前にも幸せになってもらわないと困る。

兄様と桜華の件は俺は介入出来ないが、りんの相談くらいは聞いてやれる。

困ったことや悲しい事は俺に話してくれ。

りんが兄様の事ばかり気にかけるのなら俺はりんを気にかけるようにするから。」


なんて優しい人なんだろう。

私はこの人にも幸せになってもらいたい。

それは私が陰ながら頑張ろう。


「はい、ありがとうございます。」


この時私と雷牙様の間に小さく暖かい友情が芽生えた。


私と雷牙様が互いの思いやりに心を許していると、ふと雷牙様が上を見上げた。

その表情にほのぼのとした物はない。


「さすがは兄様だ。

りん、申し訳ないが俺の膝の上に乗ってくれないか?」


さすが遊雷?

え?雷牙様の膝の上に…?


「い…いいですけど…/////」


少し恥ずかしい。


「兄様と一夜を共にした割には初々しい反応だな…。」

「い、言わないでくださいっ/////」


恥ずかしかったけどヤケになって、正座から胡座に座り直した雷牙様の足の上に乗った。


「………軽いな、飯の量を増やすように女中に言っておこう。」


「ありがとうございます…。」


一体これから何が起こるの?

雷牙様の懐にいるからよく分かる。

雷牙様はかなり緊張していた。


「雷牙様、大丈夫ですか?」


ひしひしと伝わる緊張感と少しの恐怖。


「あぁ、大丈夫だ。

りんのおかげで即死は免れる。」


なんだか物騒な事を言い出した。


「あの、私は何をすれば…」


「何があっても俺に触れていてくれ。

そうすれば兄様の怒り狂った雷に打たれることはない。

雷は触れているもの全てに伝わるからな。

りんがいると思えば打たないだろ。」


雷牙様……それはちょっと…


「どうでしょうか…。

その…もしも、遊雷の怒りが大きくて私たち二人に腹を立てていたら私も即死かと…。

私は雷牙様に連れて行かれたとは言え明確に拒絶していた訳ではないので…。」


「…………それもそうだな、その考えには至らなかった。

仲良くあの世行きか、それは困ったな。」


雷牙様が物凄く真面目に困ったと言ってきた。

かなり不安だったのが相当な不安に変わった私。


「よし、こうしよう。」


雷牙様は私の両脇に手を入れて立ち上がった。

おかげで私は不本意に抱っこされた猫みたいになっている。


何をするのかじっと待っていたら、雷牙様は私を隣に置いて手を繋いできた。


「これでいい、危ないと思った時は手を離す。

安心しろ、反射神経はいい方だ。」


雷牙様のような頼もしい方が安心しろと言っているから大丈夫よね。

不安が少し落ち着いて来た。


「兄様の雷はまぐれで何度か避けられる。」


安心できなかった、むしろ不安が大きくなった。

まぐれって…、そこは嘘でも確実に避けれると言ってよ。


雷牙様、正直者すぎる。


不安が押し寄せ気持ち悪くなってきた。

あぁ…もう……


「「胃が痛い…。」」


私と雷牙様はハッと顔を見合わせた。

どうやら同じ気持ちらしい。


「兄様と過ごしていたら一年の半分以上は胃痛だ、覚悟しておいた方がいい。」


こういう時はあの言葉よね。


「心中お察しいたします。」

「あぁ、お互いにな。」


私たち、いつの間にか胃痛仲間になってしまった。

互いに若いだろうに胃痛なんて。


……あれ?雷牙様って何歳?そもそも遊雷も何歳なんだろう。


バチバチバチッ!!


稲妻の音がする。

バチバチと威嚇するような恐ろしい音。

何が怖いって、どこから聞こえているか分からない。

前後左右、全てのところから聞こえる。

本当に遊雷は来たんだろうか。




来たのなら一体ど「みぃつけた…。」

「「っ!!!!」」


私と雷牙様と円陣を組むかのように遊雷の手が背後からそれぞれの肩に置かれた。

遊雷が私の体に触れた途端、私は震えが止まらなくなった。


それを察したのか、雷牙様がさらに強く私の手を握る。


「ねぇ、雷牙。

僕のりんがどうしてお前の空間にいるの?

僕ですらりんをこんな奥に入れたことはないのに。

まぁそれはいいや、どうせすぐに見つけられるし。

それよりさぁ…早く離しなよ、その手。」


「………。」

「………。」


離したら雷牙様が死ぬ、この雰囲気で全て分かる。

遊雷が雷牙様を殺してもおかしくはない。


私は何が何でもこの手を離すまいと力を入れる。

雷牙様の手に私の爪痕が付いてしまっていないか心配になるくらい。


「へぇ…離さないんだね?

じゃあどっちの手を切り落とそうかな?」


遊雷はさも当たり前かのように悩み始める。


「雷牙は手を切られたくらいじゃ反省しないし、りんの手を切るのは可哀想だしなぁ……。

神はどこをどう切られてもまた再生するけど贄はどうなんだろう…?」


遊雷は雷牙様の肩に置いていた手を離し私を背後から抱きしめた。


「ねぇ、りん。

試してみる?かなり痛いと思うけど。」


今すぐに手を離したい。

遊雷は私の手を切ろうとしている。


「やめろ、兄様。

ほら、離すから。」


雷牙様はあっさり私の手を離した。

それを見た遊雷は私に囁くように聞く。


「どうやって雷牙を殺す…?」


私の体の震えが尋常じゃない。

遊雷の殺意が怖い…!

私は泣きながら首を横に振った。


「こ…ころ…殺さないで…雷牙様に…痛いことしないで…!」


こんなに声が震えたのは初めてだった。

私は震えながら少し振り返って遊雷の胸元に寄り添う。


「遊雷…、何もしないであげて。

遊雷のたった一人の弟でしょ?」


「うん、僕の弟だね。

だからこそ許せないなぁ…。」


弟だから許せないって何?

たった一人の家族でしょ?

それに雷牙様は本当にいい人だ。

ここで何かされるなんて絶対に嫌。

これは賭けだった。

贄が神様を丸め込もうなんて無礼もいいとこ。


でも、こうする以外に思いつかなかったの。


私は遊雷の腕の中で向きを変えて、遊雷に媚びる事にした。

何かを与えてもらうしか能の無い贄らしく。


遊雷の胸ぐらを掴んでグッと自分の方へ引き寄せた。

そして…


「なっ///////」

「//////////」

「…………。」


私は遊雷に口付けをした。

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