雷牙

「もー、何も思い浮かばないー、面倒くさいー。」


兄様は文を書くどころか畳にゴロンと寝転んだ。


「後回しにするからだろう。

自業自得だ。

それより、りんは遅いな。

溺れてやしないか?」


さっきは何だか浮かない顔をしていたし、熱もあると言うから心配だ。


「疲れてるのかも。

昨日僕が結構手荒く抱いたから。」


「あぁそうか、手荒く……は??」


兄様…おい、嘘だろ、嘘だよな??


「抱いたって…嘘だろ?本当に抱いたのか?」


「あ、口が滑ったー。今の忘れて?」


何をヘラヘラと……


「この節操無しが!!!

いくら可愛いからと贄に手を出す奴があるか!!

ただでさえ不遇な運命を辿った者を一時の感情で遊び事にするなんていくらなんでも」


「ねぇ、雷牙。」


さっきまで寝転んでいた兄様が一瞬で俺の目の前に現れ俺の着物の胸ぐらを掴んだ。


「りんの事、可愛いと思ってるの?」


「は?今はそんな事どうだっていいだろう。

りんに手を出すなんてありえない。」


「駄目だよ、りんは僕のだから可愛いなんて思わないで。」


「俺と会話する気があるのか、そんなことは今関係ないと言ってるだろ。

大事にしろ、りんは物や道具じゃない。」


兄様は強すぎる力を持つが故に他人を思いやる心が欠落している。

もしも兄様が飽きたとりんを放り出せばりんは行く宛がなくなる。

悪名高い兄様の、しかも手を付けられた贄を誰が貰い受けると思う?


そんな物好きはこの神の世に一人もいない。

りんだけが目も当てられない状態になる。


「大事にしてるよ?

欲しいものは何でもあげるし、りんの望むこと全てを叶えるから。」


「物だけ与えればいいと言うものではない、りんの今後も考えてやれ。」


「おかしな事を言うね、雷牙。

この先のことなんて何一つ分からないのに。

そんなに先のことばかり考えてたら疲れない?」


「あぁ、疲れない。

何も考えていない方がどうかと思うな。」


兄様、どうして分からないんだ。

大事だ、可愛いと言うならどうしてちゃんとしてやらない。


「真面目だね。」


「あぁ、兄様とは違うからな。」


そう、俺は兄様とは何もかも違う。

同じなのは血だけだ。

ふと、廊下で音がした。

りんが風呂から上がって来たんだろう。

そうだ、いい事を考えた。

つい昨日の仕返しもあるしな。


「兄様なんてハゲろ。」


襖をスパッ!と開けたら髪を濡らしたりんが廊下に立っていた。


もうこうなったらヤケだ。


「雷牙様…どうしたんですか、そんなにおこ、きゃっ!!!」


俺が廊下に出てりんを担ぐとすかさず兄様が俺の方へ手を伸ばした。


兄様の手は俺に到達する事なく本来襖が閉まる所で弾かれた。


兄様、油断したな。

俺の結界に閉じ込められるなんて。


「………。」

「はっ。」


どうだ、兄様。

悔しいだろ、訳もわからず行動を制限されるのは。


「雷牙、今これをやめれば一発殴るだけで許してあげるよ?」


馬鹿を言うな、兄様。


「兄様に一発殴られたら死にかけるからな、どうせ殴られるならこのまま解かない。」


「ら雷牙様/////

降ろして下さい////」


悪いな、りん。


「このままりんをその辺の滝に放り込んでやる。

兄様がりんを大事にしないなら俺が今りんをどこへやっても同じだからな。

じゃあまた後でな。」


「雷牙、待て。」


俺が背を向け歩き出すと…


「雷牙!!!」


兄様が数百年ぶりに本気で怒っている。

その証拠に鼓膜が破れそうなほどの大きな音の黒い雷が庭に落ちた。

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