遊雷
「兄様!!!俺を揶揄うのもいい加減にしろ!
だいたい竹とんぼが分からないような男に可愛いなどと言われる筋合いはない!!!」
雷牙は朝から元気だなぁ。
キーキー言ってお猿さんだね。
「はいはい、分かったよ?
それよりここ、何かいるねさっきから。」
ここは下界のどこかの国の樹海。
足を踏み入れた瞬間から分かっていた。
この地は嫌な感じがする。
「俺だって馬鹿じゃない、あえて普通にしてるんだろう。
その方が向こうも出てきやすいからな。」
出てきてくれるかな?
こんな樹海に住んでる奴だから臆病だと思うけど。
「もう二手に別れて探さない?
その方が早い気がする。
落神殺すだけでしょ?」
子供じゃあるまいしいつまでも一緒に行動してても仕方ないからね。
「あぁ、それもそうだな。
俺はこっち側を探すから兄様は反対側を探してくれ。」
雷牙が西で僕が東ね。
「わかったー、僕忙しいから一時間くらいで終わらそー?」
竹とんぼ探さないといけないし。
「分かった、何かあれば雷を落とす。」
「はーい、またねー。」
僕らは必要最低限のやり取りだけして互いに背を向け歩き出した。
(※本来、落神討伐は五人以上の人数で行き三日ほどかかるのが普通)
僕がこの樹海を歩いていて思った事、それは…
「死体が多いなぁ。」
もう十体は見た。
人間も動物も、関節が捩じ切れて死んでいる。
きっとここに巣食う神が討伐対象になった理由は、いろいろなものが死にすぎているからだと思う。
まぁ、死ぬだろうね。
神でもないのにこんな禍々しい邪気を浴びたら。
ふと女の死体が視界に入った。
髪が長くて白い肌をした痩せた女。
顔は見えないけど、体格からかりんを思わせる。
もしも、りんがこうなったら…。
想像するだけで足がすくむような感覚が走った。
そして早くこの邪気の主を殺したい。
りんにとって危ないものはどんなに離れた所の物でも壊さないと気が済まなかった。
どうやら僕のところが当たりみたいだね。
奥へ行けば行くほど邪気が体に纏わりつく。
そのまま足を進めているとこの邪気の主に会う事ができた。
木々は枯れて鳥が死に地面に落ちている。
その主は大きな木に寄りかかるようにして座り、骨を抱いて泣いていた。
「ぁ…ぁ…………死んでしまった…………
私の妻が……死んでしまった……
いや…死んでない…まだどこかにいる…死んでない…いや…死んでしまった……もういない……」
あーあ、壊れてる。
「その子、人間だったの?」
「どこにる…?私の妻は?妻はどこへ行った?
ここにいるのは何だ?死んだ…私の妻が死んでしまった…死んだ……死んだ…死んだ…。」
話もできない。
この邪気を見る限り、もう戻っては来られないだろうな。
さっさと殺してあげよう。
なんだか可哀想になってきた。
「兄様。」
あ、雷牙が来た。
「向こうには何もなかったからこっちに来たが大当たりだな。」
「うん、そうなんだよね。
妻が死んで堕ちたみたい。」
落神はまだブツブツと何か言ってる。
「聞いた話では三十年前に、人間の女を娶るからと神の世を降りたらしい。
人間の寿命なんてあっという間だったんだろう。」
なるほどねー、判断を間違えたね。
いっそ殺して贄にしてしまえばよかったのに。
僕ならきっとそうする。
「ねぇ、楽にしてあげるから一つ教えてよ。
何でその女を贄にしなかったの?」
「兄様、聞いてやるな。分かるだろ。
それにもう会話なんてする理性はない。」
え?分かるの?僕分かんないよ?
「どんな理由があるの?」
雷牙に聞いたら雷牙はため息をついた。
「殺せなかったんだろ。
自分の愛した女を殺して贄にしたい奴なんてそういない。」
「僕はするよ?本当に愛してるなら手段なんて選ばないと思うけど。」
結局、殺す度胸がなかったのかな。
その代償がこれだよ。
罪悪感や優しさを優先したばかりに失った。
「気の毒だ。」
「そう?自業自得に見えるよ?」
自分の気に入ったものはどんな手を使っても繋いでおかないと。
今日ここへ来てよかった。
僕は改めて気付くことができたよ。
失わないためには何でもしないといけないってね。
「もう、おやすみ。」
気付かせてくれたお礼として、僕は一撃でその落神を屠った。
落神が黒い砂となって消えていく。
これで今日の仕事は終わりかな。
「さ、こんなとこ早く出よう?」
僕はやる事がたくさんあるからね。
「あぁ、そうだな。
俺は神の世の戦神に報告に行く。
兄様は好きにするといい、また邸でな。」
「うん、またねー。」
雷牙はすぐに神の世へ戻り僕がこの樹海に一人きりになった。
もう竹とんぼはいいや。
結局、竹とんぼがどこに生息しているか分からなかったし。
京の都にでも行ってりんの好きそうなもの買って帰ろう。
りんに嫌われないようにしないと。
ちゃんとごめんなさいして、許してもらわないとね。
僕はこれから先、りんとずっと一緒にいるんだから。
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