遊雷

りんの可愛い唇が紡いだ言葉は僕を喜ばすには十分だった。


嬉しい、毎日言ってほしい。


とにかく今日は気分がよかった。


りんを僕の物にできたし、りんの中にも触れられたし、りんに僕だけと言わせる事もできた。



「なぁ………、兄様。

やめてやれ、本当に可哀想だ。」


そして今は夕餉の時間。

雷牙は僕たちの何を見て可哀想だと言ってるのかな?


「遊雷…、も、もう無理だよ、食べれない!」


りんがお腹空いたって言ってたからこうして僕の膝の上に乗せて一緒に食べてるだけなのに。


「りん、遠慮しなくていいよ?

ほら、あーんして?」


「ほ、本当に食べられないのっ!」


「兄様可哀想だろ!食えないんだ!もうこれ以上!」


いつもの夕餉より賑やかで楽しい。

やっぱり、りんはすごい子だよね。


「兄様!よく見ろ!

こんなに小さくて華奢な女なんだぞ!

俺たち程食えないに決まってるだろ!

そもそも!嫁入り前の女になんて事をしてるんだ!」


雷牙は口を開けば、嫁入り前って言うけどさ…


「りんは誰にもあげないよ?

僕のなんだから。」


どうして勝手に誰かにあげる話になってるの?


「そうやって一生縛る気か?」


「うん、そうだよ?」


何か問題ある?


「はぁ……。」


「雷牙、そんなにため息ついてたら幸せが逃げるよ?」


「りん、これから先添い遂げたい男が出来たらまずは俺に言え。

俺が一緒に兄様を説得する。」


りんが雷牙の言葉を聞いて何度も頷いた。


「ねぇ、りんに話しかけないでよ。

僕のだよ?」


どうしてみんなりんと話そうとするの?

雷牙もあの贄も。


「分かった、じゃあ兄様の話をしよう。

桜華への文の返事は書いたのか?」


あぁ、文もらったんだった。


「後で書くよ。」


「あぁ、そうしてくれ。

あ、それから兄様。

明日少し付き合ってくれ。

下界で少し厄介な落神がいるらしい。」


厄介な落神?


「そんなの雷牙だけで大丈夫でしょ?」


「念の為だ、戦神いくさがみから注意するようにと念を押されている。

だから兄様も来てくれ。」


戦神の警告か…それは確かに厄介かもしれないね。


「えー、たかが落神でしょ?

僕、りんといなきゃいけないから無理だよ。

ねー?りん。」


りんはいきなり話を振られて驚いたらしく僕を見上げた。


「え?あ…えっと…、大丈夫だよ?私は。

落神?だっけ?よく分からないけど、雷牙様が困ってるから遊雷も行った方がいいんじゃないかな?」


雷牙のせいでりんが変なこと言い出しちゃった。


「りん、落神を知らないのか?」


あ、雷牙がりんに話しかけた。

駄目だって言ってるのに。

りんは僕を見上げたまま聞いた。


「雷牙様と話してもいい?」


え……ちゃんと僕に許可取るの?

それすごく可愛い。

けど…


「駄目。」


りんは僕のだからね。


「いいに決まってるだろ。

りん、落神って言うのは言葉通り落ちた神のことを言う。

要は神力が暴走し正気を失った神のことだ。

理性は削がれ、神力は禍々しくなり、下界でありとあらゆる厄をもたらす。」


「落神…怖いですね…。」


りんは雷牙に言葉を返した。


「りん、駄目って言わなかった?」


僕がそう言うとりんがハッとしたような表情をする。

その顔初めて見た、可愛い。


「ごめんなさい、遊雷。」


あ、怖がらせちゃったかな?

そんなつもりなかったんだけど。


「りん、謝る必要はない。

お前が話したい時に話したい奴と話せばいい。

しかし困ったな、兄様は嫉妬深い上に落神の討伐も渋る腰抜けときた。

格好がつかないどころの騒ぎじゃないぞ。

なぁ、りんもそう思わないか?」


雷牙はわざとりんに話しかけてる。

僕を挑発して何を引き出したいの?

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