遊雷

本当に待ってほしい。

何この流れ。


「遊雷?早く支度しないと雷牙様に怒られるよ?」


全てが嫌になり寝転ぶ僕に優しく問いかけるりん。


「行きたくないなぁ。」


おかしいよね、ついさっきまでりんと一緒に出かける話をしていたのに。


「閻魔様って怖いんでしょ?

行かないと遊雷が怒られちゃうよ。

それに……。」


りんはいきなり押し黙る。

どうしたんだろう。

言いたいことが言えなくて可哀想。


僕相手になら何を言ってもいいのに。


「りん、何でも言っていいよ。

僕に教えて?」


僕がそう聞くとりんは綺麗な唇を開いて可愛い事を言った。


「もしかしたら閻魔様が私を取り上げるかもしれないんでしょ?

……私は…それが嫌で……あの…遊雷さえよければ、私は遊雷と一緒にいたいの…。」


え、待って待って待って。


「かわいいーーー。」


何それ、すごく可愛い。

僕と一緒にいたい?

僕さえよければ?

何それ、本当に可愛い。


「ほ、本当に、遊雷さえよければだから!

我儘言うつもりもないし、縋り付いたりしないから安心して!」


どちらもしてくれて構わないんだけどなぁ、僕は。


「ねぇ、りん。

もう忘れちゃったの?」


あまりの可愛さに僕の一番奥にある何かがぽっと暖かくなった。


それが少し照れくさくて少し気持ちよくて、僕はさっと起き上がってりんの額に自らの額を付ける。


「僕のりん、でしょ?

どこにも行かせないから何も心配しなくていいよ。」


りんが嬉しそうに笑った。


「えへへ…//////」


可愛いなぁ…本当に可愛い。

こんなに可愛いりんを閻魔の糞爺に取られるなんて冗談じゃない。


僕がさっき言った通り、僕のりんだ。

誰にもあげない。


りんと一緒に出かけられないのはすごく残念だけど、やる事やってからゆっくり行けばいい。


さて、気合いも入って来た事だし…


「行ってくるね。」


「うん…、本当に気をつけてね。」


気をつけてね、か。

僕、今までそんなこと言われたことないなぁ。


僕が相手をしたらみーんな死んじゃうから。


けど、それは可愛いりんには内緒にしないと。


僕は今、りんと近い位置にいる弱くて弱くて仕方のない神様なんだから。


立ち上がり、心配そうなりんの頬に口付けして部屋を後にする。

庭では宣言通り雷牙が立っていた。


「早かったな、兄…おい、兄様。

冗談だよな?寝間着で行くつもりなのか?なぁ?」


別にどうでもいい奴らの集まりでしょ?


「寝間着で十分だよ。

それより早く行こう?

嫌なことはさっさと終わらせたいからね。」


雷牙は僕の言葉を聞いてかなり大きなため息をついた。


「…………………まぁ、行くだけよしとするか。」


「うん、僕って偉いよねー。」


本当の事を言っただけなのに雷牙はさらにため息をついた。


「もういい、早く行くぞ。」


雷牙が空間に切れ目を入れてその中へ入って行く。

僕もそれについて行き少し歩くと地獄にある閻魔の邸についた。


いつ見ても…


「暗くて趣味の悪い邸だねー。」


空は赤黒く、木と花は枯れている。


「頼むから黙っててくれ、兄様。」

「はーい、弟殿。」


この邸で何をするのか知らないけど、僕が来たかららにはタダでは帰らない。


ただの地獄を最悪の地獄に変えてやろう。


集まった連中はどんな顔をするかな?


今から少しだけ楽しみになってきた。

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