遊雷
もう月が上がった頃、バタバタと僕の部屋の外の廊下が騒がしい。
きっと雷牙だろうなぁ。
スパン!!!!
「兄様!!!」
ほら、雷牙だ。
「そんなに強く開けたら障子が痛がるよ?
あぁ、可哀想ー。」
「いいか、兄様。
可哀想って言うのはな、兄様がやらかした事の全てを収集して今の今まで外を駆けずり回っていた弟の事を言うんだ。」
雷牙はいつも手を打つのが早いね。
「僕の弟はせっかちだなぁ。
大丈夫だよ、僕に逆らう愚か者なんてそういないんだから。」
「あぁ、いない。
確かにいないが、だからと言って秩序を乱していい理由にはならんだろう。
あの世への無断侵入、他の神への攻撃、さらには贄の強奪。
さすがにこれはやりすぎだ。」
「別に誰もあの世に送ってないから大丈夫だよ。
雷牙は怒りっぽいなぁ。
それに少し声を落としてよ、せっかくりんが気持ちよさそうに眠ってるのに。」
りんはあのまま疲れて眠ってしまった。
「その贄もよくもまぁこんな状況で眠っていられるな。
いや…兄様、まさか殴って気絶でもさせたのか?」
雷牙はとんでもない言い掛かりを僕に付けてきた。
「失礼だなぁ。
そんな事しないよ、雷牙じゃあるまいし。
疲れて眠っちゃったんだよ。可愛いでしょ?」
僕の言葉を聞いて雷牙が盛大にため息をついた。
「あのなぁ、兄様。
どうせその贄はあの山神に返さなければならない。
長引けば長引くほどその贄への罰も重くなる。
可愛いだとか何とか言うならいるべき場所へ返してやれ。」
「あははー。」
「……今笑う所あったか?」
むしろ笑うとこしかなかったよ。
「りんは僕のだからここにいるのは当然でしょ?」
「兄様、あの山神は閻魔様に掛け合うと言っていた。
もしもそうなればタダでは済まない。」
閻魔?地獄の王に掛け合ってどうするんだろう。
「大丈夫だよ、あんな年寄り僕が一発殴ったら消し炭になるんだから。」
「兄様の心配をしているんじゃない。
その贄の心配をしているんだ。
山神は小賢しい男だ、まず一番にその贄を傷付け罰するだろう。」
「えー、そんな事したら今度こそあの山神には死んでもらわないとね。」
雷牙にこんなにも小言を言われると分かっていたらあんなしょうもない神なんて殺してやったのに。
いや…
「いいこと思いついた。」
僕、天才かも。
「聞くだけ聞いてやる。」
雷牙は胡散臭そうに答えた。
「山神殺してくるねー、今から。」
うるさい虫は潰して黙らせるのが一番だよね。
「兄様、その贄を返せば何もかも丸く収まる。
事を大きくしないでくれ。」
何が丸く収まるって言うの?
「駄目だよ、この子は僕のだから。」
可愛い可愛い可愛いりんはずっと僕のもの。
「兄様」
「くどいよ、雷牙。
僕はりんを手離さない。
もしも強制的に引き離されたら、そうだなぁ…
僕、"堕ちる"かもしれない。」
正常な僕でも十分面倒なのに、理性を失って堕ちたらどうなると思う?
この世なんて一瞬で消えちゃうよ?
「その贄は確かに美しいがそこまで入れ込む理由が分からない。」
雷牙がりんを美しいと言った。
僕はそれすら不快だ。
「りんに興味を持たないで、僕のだから。」
雷牙は可愛い弟だけどりんだけはあげない。
「安心しろ、その贄自体に全く興味はない。
兄様が入れ込んでる理由が知りたいだけだ。」
理由……
「理由かぁ…。
いろんな意味で可愛いから?
僕もよく分かんないや。」
別に理由なんて僕にはいらないんだけどな。
僕が気に入った、ただそれだけの話だから。
「はぁ…そうか。」
雷牙は再びため息をついた部屋を後にした。
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